フォトエッセイ

連載|旅のフォトエッセイ『夜空に虹が架かる時』3話 |北米大陸編

夜の虹 珍しい虹 エッセイ第3話

写真と旅をこよなく愛するフォトラベラーYoriです。

地球は天の川やオーロラなど神秘的な光景を見せてくれますが、稀に夜空をキャンバスに虹を描いてくれることがあるのです。

ナイトレインボー、ルナレインボー、ムーンボーとも呼ばれる大変珍しい虹。

ハワイでは「夜の虹は見た者にとって最高の祝福」と遠い昔から言い伝えられてきました。

今回のフォトエッセイは、私が今までに遭遇した四つの大陸の「夜の虹」と「のようなもの」を旅のエピソードとともに綴りました。

4話連載でお届けします。

今回の場所はカナダのホワイトホース。

夜の虹の写真を通して、最高の祝福をお受け取りください🌈✨

第1話はこちら


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大陸3・北米|カナダ・ホワイトホース

ANA フォトコン受賞作品ANAのフォトコンテストで受賞し公式カレンダーに採用された作品。

2019年夏、とても嬉しいニュースが舞い込んだ。

ANA (全日空) のフォトコンに応募した作品が受賞し、2020年の公式カレンダーに採用して頂ける事になったのだ。

それはシドニー・オペラハウスの夜景。

冬の風物詩となった光と音の祭典VIVID SYDNEY開催中に、ライトアップされたオペラハウスと行き交う船の光跡を捉えた作品だった。

シャッター速度4分間という長時間露光で撮影を試みた。

4分間も露光していると、移動する船が多過ぎて光跡が「縦横無尽網目状大渋滞」になってしまったり、光跡が途中でプツっと消えて「客船消息不明事件」みたいになってしまったり、なかなか思うような絵にならない。

冷たい風を受け鼻水涙目攻撃を振り払いながら、もう1回もう1回と、気が付けば2時間近く粘ってしまった。

でもそれはスケートリンクを滑走する光たちと一緒に遊んでいるような心弾む時間だった。

後にフォトコンの事を知り応募準備をしている時、1枚の作品に目が留まった。

中央を走る青と水色の太い光跡の色がANAのロゴの色と同じ事に気付いたのだ。

何か導きのようなものを感じてこの作品を選んだ事を思い出す。

コンテストの賞品は、ANA路線ならどこでも好きな所へ飛べるビジネスクラスの往復チケット2名分。

親孝行を兼ね、アートが大好きな母を連れてヨーロッパを旅する事になった。

イギリス・ベルギー・オランダの美術館や庭園などを巡る旅を丁寧に計画し、手配も全て完了した。

ワクワクが盛大に押し寄せてきて、朝のウォーキングにはついついスキップが混ざってしまったよ。

がしかしだ。

出発1週間前の2020年3月11日に信じがたい事が起きた。

WHOが「新型コロナウイルス感染症はパンデミックに相当する」と表明したのだ。

世界中の国々が前代未聞の国境閉鎖。

庶民でも気軽に飛行機に乗って海外を自由に飛び回れる時代になってから初めての事態だろう。

海の向こうが果てしなく遠く感じてきた。

失われし2年間が始まったのだ。

Opera house just before lockdown ロックダウン前日のオペラハウスロックダウン開始前日のオペラハウス。いつもは溢れかえっている人々が消えた。

ANAも不可抗力の事態を気の毒に思ってくれたのだろう。

この状況を考慮してチケットの有効期限を2022年3月まで延期してくれた。

コロナ禍で大打撃を受けた企業の一つにも関わらず、本当に有り難い配慮だった。

なるべく期限ギリギリの方がコロナの勢力も弱まっているだろうと考え、その3月に旅を決行する事にした。

もちろんまだコロナ禍が収束した訳ではなく、国境解放した国は限られていた。

高齢の母は旅を断念し、代わりに友人が手を上げてくれた。

せっかくのビジネスクラスだから出来るだけ長距離を飛んで空の旅を楽しもうゼと、庶民感覚満載でロンドンへのフライトを予約。

以前仕事仲間だったイギリス人夫婦を訪ね一緒に旅をしようと盛り上がり、イギリス周遊プランを立てた。

旅が始まる前のワクワク気分が再び弾けてきた。

がしかしだ。

またもや想定外の事態に襲われた。

今度はロシア・ウクライナ戦争勃発のため、戦地上空を路線にしているフライトが我々の出発2日前に全て欠航となってしまったのだ。

もうね、カウンターパンチ食らってクラクラして視界が歪んで見えたわ。

 

抗えないパンデミックと戦争。

どうしてもヨーロッパ方面に行かせてもらえない。

見えない何かが意図して私を拒んでいるとしか思えない。

「先に行くべき場所があるだろ」と言われているのだろうか?

せっかくのご褒美チケットだから無駄にはしたくなかった。

期限終了まであと3週間。

観光客の受け入れを開始した国はどこだ?

その時友人が呟いた「死ぬまでに一度オーロラを見てみたいんだ」の一言が私のやる気スイッチをオンにした。

「それだそれだオーロラ見に行こー!」

カナダは条件付きで入国できるのがわかり、バンクーバー経由ホワイトホースを目指す事になった。

オーロラ アラスカフィルムカメラ時代にアラスカ・チェナで出会えたオーロラ

時差があるから現地と連絡が取りにくいものの、友人は昔バンクーバーに住んでいて土地勘があったし、私はアラスカでオーロラ撮影の経験があったのでどんな手配や物が必要か頭に入っていた。

手分けして猛スピードで準備を進めた。

コロナ禍の為、オーストラリア・日本・カナダ出入国の度にPCR検査の陰性証明が必要なので、クリニックの予約も必須だった。

あーややこしい。

しかし鮮やかなチームワークが功を奏し、3日間で全ての手配完了、1週間後にカナダへ出発となった。

あとはPCR検査が陽性にならず、ちゃんと飛行機が飛んでくれれば大丈夫なはず。

でもまた何が起こるかわからないから、神様仏様世界中の神々様、今回もどうぞどうぞよろしくお願い致します。

一番の懸念はPCR検査の結果だった。

陽性なら一発ノックアウト即隔離で旅終了。

話は外れるが、オーストラリアとカナダの検査方法は、綿棒を鼻に突っ込まれグルグル掻き回される痛いやつだった。

つい頭を引いてしまうが、綿棒はそれを許さず容赦なくグルグル攻めてくる。

日本のそれは唾液方式。

検査ブースに貼られた梅干しとレモンの拡大写真に笑った。

皆パブロフの犬と化し一生懸命唾液を絞り出すのだ。

シドニーから出発した2匹のパブロフ犬は3か国を移動したため、トータル6回も検査を受けるハメになったのだった。

 

バンクーバー・ギャスタウンの蒸気時計バンクーバー・ギャスタウンの蒸気時計。

カナダ路線搭乗と入国に必要なPCR検査も見事陰性で証明書をゲット。

オーロラ目指し、いざ出陣だ!

コロナ禍対策中の機内は"密"を避けるために多くの空席を確保しており、私の大きなカメラバックはその空いた席に座らせてもらえた。

きちんとシートベルトを装着し、一人前のビジネスクラス乗客っぷりがカワイイ。

その日はたまたま私の誕生日と重なっており、ANAさんが機内でサプライズのお祝いをして下さった。

ステキな旅のスタートとなった。

バンクーバーに一泊し、翌日ホワイトホースに辿り着くまで全て順調。

世界中の神々様に感謝した。

 

ユーコン ホワイトホース 山脈久しぶりに見る雪景色に心が洗われる。

ここはバンクーバーから北北西へ2,500km、カナダ先住民が多く暮らすユーコン準州の州都だ。

3月にもなると寒さも緩んでおり、夜でもマイナス8度程度、日中は氷点下にならない日もあった。

しかし、真冬にはマイナス40度まで下がることは珍しくないという。

アラスカでマイナス35度を経験した事があるが、眉毛・まつ毛や帽子からはみ出した毛という毛は全て真っ白に凍ったし、濡れタオルをクルクル10回転させれば板になったし、あれは間違いなくバナナで釘が打てる世界だったよ。

極寒の地へ行けば行くほど、人を思いやる心というのは深く暖かくなるのだろうか?

こんなことがあった。

その時我々は幹線道路を渡ろうと、溶け始めた雪でぬかるむ歩道で立ち止まっていた。

信号でも横断歩道でもない場所だった。

すると15メートル程手前で両車線共に車がピタッと止まった。

左折する為に停車したのかと思いきや、我々に「渡れ」とジェスチャーを送ってくれたのだ。

急かすこともなく、ちゃんと渡り切るまでゆっくりと待ってくれる。

な、なんて優しいユーコンの人々!

この優しさに慣れていない我々はその都度戸惑ってしまうのだが、どこでも歩行者優先が徹底されていた。

寒さの中、足元の悪い道を歩く弱者への思いやりなのだろうか。

「止まってくれない車はよそ者だよ。ここではそんなヤツらは白い目で睨まれるんだ」

と地元住民が教えてくれた。

極寒の地というのは、人との繋がりを大切にしないと生き延びる事ができない。

そんな背景がこの習慣を生み出したのだという。

それに引き替え、私の住むシドニーなんて、歩行者が横断歩道を赤信号で渡ったり、横断歩道が無い場所を不法に横断すると警察に捕まる。

罰金75ドル〜220ドルを科され、その場で支払わされる。

「現金無いの? クレジットカードでもOKよ」と容赦ない。

嗚呼、世知辛い罰金王国よ。

+++

夜も深まる22:30、観測小屋へと出発した。

ガイドさんがオーロラ予報をチェックしてくれるのだが、今夜は活発ではなさそうだと残念な答えが返ってきた。

結局期待のオーロラが姿を見せる事は無かった。

しかし満月を翌日に迎える月光が見せてくれた雪景色は、それはもう幻想的で美しい光景だった。

カナダ ホワイトホース 雪原の星くず

降り積もった雪の結晶が光を受け、雪原が星空のようにキラキラ輝くのだ。

雪を掬うと手の中でも星たちが輝いた。

足元に散りばめられた星くずがあまりにも綺麗だから、下ばかり、時々空、を眺める一夜となった。

冷気が奏でる澄んだ音が聞こえてきそうな雪原での月光浴は、ここに辿り着くまでのドタバタをすっかり癒してくれた。

+++

翌夜もオーロラとの出会いを求め観測小屋へと向かった。

今夜は光のカーテン揺らめく天体ショーを拝めるだろうか。

そこは木々のシルエットが美しい場所だった。

日頃ユーカリの森ばかり見ているので、左右対称のフォルムで真っ直ぐお行儀の良い立ち姿の針葉樹が目に新鮮だ。

ユーカリは自由奔放な性格で、踊るような姿で成長するのよね。

しばらくすると薄雲が空を覆い始めたではないか。

オーロラが出ても透明感が損なわれてしまうかもしれない。

邪魔になっちゃうなぁと思いながら、ふと視線を月へと動かした。

「あれ? ナイトレインボー?!」

なんとそこには月を中心に大きな光のアーチが夜空に描かれていたのだ。

月ハロ 月暈 ナイトレインボー

正確に言うとそれは月ハロ (halo) ・月暈現象というもの。

薄雲の氷の結晶が月光を受けプリズムの役割をすることで現れる。

邪魔だと思った薄雲が広がったお陰の月ハロ出現だった。

実際には月を中心としたリング状の光だ。

ちょうど下半分が針葉樹林に隠れ、上半分のアーチだけが姿を見せているため、たいへん具合良く夜の虹に見えている。

それはまるで月が迎えてくれる異次元世界へのゲートのようだった。

「のようなもの」ではあったけれど、あまりにも神々しくて私には「夜の虹」にしか見えなかった。

そして、見逃さずに気付けたことが、以前よりも地球と近しくなれたようで嬉しくなった。

 

🌈✨夜空に虹が架かる時、それは最高の祝福を授けられる時。

「全ての物事には理由がある。その意味を察しなさい。」

と言われた気がした。

 

ホワイトホース オーロラ 縦1−2

 

薄雲が消え満天の星々が戻った深夜過ぎ、突然オーロラが現れた。

意志を持っているかのように緑色の光のカーテンは大空に揺らめいた。

揺らめきながら成長した。

成長しながら移動した。

そしてゆっくりと夜空に溶け込み、姿を消していった。

 

第4話・最終回(大陸4・アフリカ)へ続く

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