写真と旅をこよなく愛するフォトラベラーYoriです。
地球は天の川やオーロラなど神秘的な光景を見せてくれますが、稀に夜空をキャンバスに虹を描いてくれることがあるのです。
ナイトレインボー、ルナレインボー、ムーンボーとも呼ばれる大変珍しい虹。
ハワイでは「夜の虹は見た者にとって最高の祝福」と遠い昔から言い伝えられてきました。
今回のフォトエッセイは、私が今までに遭遇した四つの大陸の「夜の虹」と「のようなもの」を旅のエピソードとともに綴りました。
4話連載でお届けします。
今回の場所は、オーストラリア・ブルーマウンテンズ。
夜の虹の写真を通して、最高の祝福をお受け取りください🌈✨
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『夜空に虹が架かる時』プロローグ
「それってファンタジーな話?」「スピリチュアル的な?」
夜空に架かる虹だなんて聞いたら、大半の方がそう考えるのではないだろうか。
私も御多分に洩れずその一人であったわけで、「なぜ? どこで? どうやって?」と5W1Hの法則が頭の中で迷走し、上手に想像することが出来なかった。
虹は空気中の水粒に太陽の光が当たって作られる昼間のものだから、夜空に現れるという発想すら持ったことが無かった。
思い込みほど視野を狭めるものはない。
夜の虹は、地球上で実際に起きる現象だったのだ。
見たい見たいと本気で思い続けていると願いは叶えてもらえるものらしく、今までに四つの大陸で遭遇することができてしまった。
夢心地に浸った「夜の虹」と「のようなもの」を写真を織り交ぜながら、神秘的な世界へと皆さんをご招待させて頂きます。
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初めて夜の虹の存在を知ったのは、私が勝手にシショーとして崇めている自然写真家・高砂淳二さんの著書『夜の虹の向こうへ』を読んだ時だった。
シショーは夜の虹を集めた写真集を世界で初めて世に送り出すという偉業を成し遂げたスゴい方なのだ。
その現象は狙って撮れるものではないので、写真集に出来るほど奇跡的瞬間に出会えたなんて、地球に味方された選ばれし人としか思えない。
シショーの「虹を巡る旅」の話は大変興味深く、文字を追う目の動きが止まらなかった。
旅の始まりは、古代ハワイの伝統文化を継承されているカイポ・カネアクアさんから教えられたという「夜の虹」との偶然の出会いからだった。
その出会いをきっかけに、見えない何かに導かれていくシショーの人生の旅のお話しでもある。
読む速度は緩むことなくどんどん進み、次のページをめくった。
そこにはカイポさんがいた。
ページ一面に印刷されている写真の彼と目が合った。
ズキンとしたその2秒後、恋に落ちた。
慈愛に満ちた視線に深く吸い込まれてしまったのだよ。
いつでも会えるように(メイン理由)、教えを思い出せるように(サブ理由^^)、携帯電話でそのページを撮って保存してあり「どこでもカイポタイム」の実践手段として個人的に大切にしている。
ハワイは虹の州とも呼ばれ、車のナンバープレートにも虹が描かれているほど虹は身近な存在だ。
年間を通して熱帯雨林に太陽光とにわか雨が交互に降り注ぐ。
すると雨粒のプリズムが七色の光のアーチを空に描く。
ハワイはそんな虹の楽園なのだ。
No Rain, No Rainbow(雨降らずして、虹架からず)という諺もある。
つらい事の後には良いことがやってくるよという解釈になるが、虹追い人の自分としてはもやは雨は辛いことではなくワクワクの前触れだ。
そのハワイですら、夜に虹が現れるのは非常に稀な事だという。
古来ハワイアンたちは
’夜の虹は最高の祝福’
であり、
’見た人にとって大きな変化の前触れ’ であると捉えてきたという。
『夜の虹の向こうへ』P2より
最高の祝福を授けてもらえる程に、夜の虹は極めて珍しい現象なのだった。
どんな感じに見えるのだろう。
その幻想的な景色を想像しただけで気持ちが落ち着かなくなってくる。
死ぬまでに、せめて一度は自分の目で見てみたいという思いが大きく大きく膨らんだところで本を閉じた。
余韻がしばらく続いた。
そのたった1か月後のクリスマスの聖夜に、ある事が起こったのだ。
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大陸1・オーストラリア|シドニー郊外・ブルーマウンテンズ
2015年のクリスマス、休暇を楽しもうとブルーマウンテンズへ繰り出した。
そこは私の住むシドニー市街地から西へ車で2時間ほどの場所にある、オーストラリア版のグランド・キャニオンだ。
どこまでもユーカリの原生林に覆われている青い大峡谷。
ユーカリと言えば爽やかな香りを思い出すが、これは「テルペン」というアロマテラピーでも使われる精油になる成分だ。
ユーカリは乾燥や害虫から身を守る為にテルペンを大量に放出し、気化したガスが光を受けて青く霞み原生林全体を覆っているのだという。
ゆえにブルーマウンテンズと呼ばれるようになった。
ちなみに「ブルーマウンテン」はジャマイカのブルーマウンテン山脈の特定エリアで栽培されたコーヒーのブランド名なのね。
「ズ」をお忘れなくね。
多様な動植物や先住民族・アボリジニ人の文化的価値も含め、八つの国立公園をまとめて「グレーター・ブルーマウンテンズ」として、2000年に世界遺産に登録された。
驚きなのは、ウォレミ・マツ(Wollemi Pine)などゴンドワナ大陸時代に起源を持つ原始的な種が生き延びていることだ。
とは言っても、最後の野生のウォレミ・マツは孤立した1か所に残っているだけで、100本にも満たない絶滅危惧種。
保護の為一般公開はされていないが、進化過程を調査するために非常に貴重な場所となっている。
ゴンドワナ大陸時代って、南米・アフリカ・インド・南極、そしてオーストラリアがまだ一つの超大陸で、恐竜王国だった時でしょ。
その頃の種が脈々と生き永らえているなんて。
目の前に広がる青い大峡谷を眺めながら大きく深呼吸をした。
ウォレミ・マツが太陽を浴び光合成で作り出した酸素が、今自分が吸っている空気のどこかにほんの少し混ざっているかと思うと、悠久の地球の営みを体感しているようで胸がいっぱいになってくる。
この日はクリスマス休暇ということもあり、森の中でブッシュウォークを楽しんでいる家族連れも多い。
「Merry christmas!」と笑顔で交わす挨拶が空気を更に美味しくしてくれる。
ふと不思議な事に気が付いた。
小さな子供たちがキラキラした羨望の眼差しで私を見つめてくるのだ。
一直線で駆け寄ってくる子までいる。
「え? なに? 私って子供に人気のキャラだったっけか?」
そうだ、すっかり忘れていた。
今日はせっかくのクリスマスなんだから気分上げ上げでいこー!と、年甲斐もなくトナカイのツノのカチューシャを付けて森を歩いていたのだった。
確かに子供らは「私を」というよりは「私の頭部」を見ていたわ。
ツノを外してちびっ子の頭に乗せてあげたら、ピョンピョン跳ねて親トナカイの元へと走っていった。
南半球の12月は夏の盛りだが、森の香りに包まれながら木漏れ日の中を歩くブッシュウォークは爽やかで、身も心も存分にリフレッシュできた。
第2部は夜の撮影だ。
この日は満月と重なっていたため、月光に浮かび上がる樹海や奇岩のシルエットが撮れたらいいなぁという期待があった。
サマータイム中という事もありなかなか夜がやってこない。そうこうしているうちに雲が空を覆い始めてしまった。
夜の色が濃くなるまで待ってから、ベタだけど試しに観光客に一番人気のエコーポイントという展望台に行ってみた。
三つの奇岩が並ぶスリーシスターズで有名な場所だ。
先住民族・アボリジニ人たちは、天地創造、文化のあり方、信念や約束ごとなどを物語に乗せて口承してきた。
その一つ、美しい三姉妹の悲しい物語からその名が付けられたのだそう。
月はすっかり雲に隠れてしまったため、樹海は月光で浮かび上がるどころか漆黒の闇のまた闇。
予想外だったのは、奇岩・スリーシスターズが煌々とライトアップされていた事だ。
観光客へのサービスなのだろうが、ファインダー越しの景色はその三つの岩だけが「どうよ、スゴいでしょワタシたち」と盛大にアピールしてくるので、違和感が充満してしまう。
うろうろしながら、ま、こんなこともあるさと撮影をあきらめ、ベンチに座りながら三脚を外し片付けを始めた。
何気なくスリーシスターズの方へ目を向けると、岩の上を白いベールのような霧雲が流れている。
気のせいか、それが色に染まっているように見えるのだ。
「え? まさか?」
気のせいじゃないよ。
本当に色が見えてるよ!
水分を多く含んだ霧雲がライトに照らされ虹のような現象が浮かび上がったのだ。
バッグにしまったカメラを慌てて取り出しシャッターを切った。
わずか数分の出来事。
そのベールは奇岩の上を横切ると、900mもある谷底へと勢いよく吸い込まれていった。
まるで白い龍が飛んでいるかのように。
シショーの本を読んでからわずか1か月後、「夜の虹のようなもの」に遭遇してしまった。
月光ではなく人工的な光源だから本物とは言い難いが、それでも夜空に浮かぶ七色の光を見ることができたのだ。
クリスマスの聖夜の特別な贈り物にもう夢心地。
🌈✨夜空に虹が架かる時、それは最高の祝福を授けられる時。
「地球からの贈り物を見逃さないよう、あらゆる自然と向き合ってごらん。」
と言われた気がした。
第2話(大陸2・南米)へ続く
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