写真と旅をこよなく愛するフォトラベラーYoriです。
地球は天の川やオーロラなど神秘的な光景を見せてくれますが、稀に夜空をキャンバスに虹を描いてくれることがあるのです。
ナイトレインボー、ルナレインボー、ムーンボーとも呼ばれる大変珍しい虹。
ハワイでは「夜の虹は見た者にとって最高の祝福」と遠い昔から言い伝えられてきました。
今回のフォトエッセイは、私が今までに遭遇した四つの大陸の「夜の虹」と「のようなもの」を旅のエピソードとともに綴りました。
4話連載でお届けします。
今回の場所は南米・ベネズエラ。
夜の虹の写真を通して、最高の祝福をお受け取りください🌈✨
第1話はこちら。
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大陸2・南米|ベネズエラ・マラカイボ湖/カタトゥンボ
後にも先にも、あれほど天国と地獄が同時にやってきた旅は無い。
事の始まりは、私が漏らした「南米に雷が多発過ぎてギネスに認定された場所が有るんですって」という一言だった。
雷が年間最大300日も発生し、それが一晩中続くという全くもってクレージーな場所だ。
あまりの頻度に、17世紀半ばまで続いた大航海時代には、その雷光が灯台代わりにも使われていたというからスゴい。
南米最大のマラカイボ湖に流れ込むカタトゥンボ川河口地帯、カタトゥンボ。
高砂淳二シショーのスイッチが入った。
+++
2017年10月、ベネズエラのカラカス空港に集合することになった。
日本から出発するシショーを含む写真仲間の男性4名は、パリのシャルル・ド・ゴール空港経由でカラカスへ。
私はシドニーからチリのサンチアゴとコロンビアのボゴタ経由でカラカスに入る。
予定だった……。
あと20分で搭乗という時、日本出発組の仲間からメッセージが入った。
「ヨリさんの乗り継ぎのフライトが無いんですけど」
全く意味がわからない。
乗り継ぎ便は今朝チェックした時には問題なかったし、eチケットも持っている。
今から搭乗するフライトのチェックイン時にも何も言われなかった。
試しに利用する南米の航空会社のウェブサイトを開き、フライトナンバーを入れて調べてみた。
”The flight with that number does not exist. ”(そのナンバーのフライトは存在しません)
なんだそれ。タイプミスした?
やり直してみる。
「そのナンバーのフライトは存在しません」
キャンセルとかならまだしも、存在しないって、ど、どゆこと???
搭乗が始まってしまった。
何も解決しないままだけど、ここに居ても仕方ないのでとりあえずサンチアゴまで行ってみよう、と腹をくくり南米へと飛んだ。
サンチアゴに到着し、一体全体どうなっちゃってるのと調べるのだが、航空会社間をたらい回しにされるだけで全く埒が明かない。
とにかく私のフライトが「存在していない」事が明確になっただけだ。
しかも帰りのカラカス発の便も消えてしまっている。
謎だ。
途方に暮れるっていうのはまさにこの事だ。
残された手段は一つ。
サンチアゴからパナマ経由でカラカスに入る往復チケットを新たに購入する事だった。
調べてみるとUS2,000ドル以上するではないか。泣けてくる。
さあ、このままシドニーに戻るか。
いや、サンチアゴを旅行してから戻るか。
でもなぁ、後から仲間たちが撮った雷100連発!みたいな写真を見たらめちゃくちゃ悔しいよなぁ。
女一人で行けるような場所じゃないし、そもそも私が言い出しっぺだし……。
同じような事態に巻き込まれている人たちがいるのだろう。
チケットの値段がじわじわ上がってきている。
もたもたしていたら席が埋まってしまうかもしれない。
「えいっ!」と購入ボタンをとクリック。買っちゃった。汗
しかしまだ安心はできない。
コロンビアとパナマでの乗り継ぎがうまく行かないとカラカスで仲間たちと合流できないのだ。
神様仏様世界中の神々様、助けてください、お願いします。
本気の祈りが通じてか、経由地2か所とも時間通りに飛び無事にカラカス入り出来た。
先に到着している仲間たちと久しぶりの再会だ!
ニコニコ笑顔で到着ロビーに出ると……
あれ、誰も居ない。あたりを見渡すも気配すらない。
「タクシー? ホテール?」と営業してくる大きな男たちに囲まれるが「友達を待ってるのっ。しつこいなあ。散ってくれー!」と一喝。
してみたものの、全然仲間たちが見つからなくて、さっきの威勢もしぼんでくる。
もう1時間近く経とうとしているのだ。
流石に心細くなってきた。
これドッキリ? なんかの罰ゲーム? 私はカラカスで撃沈なのか?
すると私の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
彼女は我々の現地ガイドの奥さんだった。
話によると、仲間たちは税関に止められ、まだ出国していないのだと。
高級カメラやレンズをいくつも持っている為、ベネズエラで売りさばくのだろうと難癖を付けられているらしい。
要は袖の下をよこせって事だろう。
国内線出発の時間が迫ってきているから、ガイドのご主人が交渉しに中へ入っていったのだという。
救世主のお陰で全員解放された。
沈まずに済んだ。
「おおお、ヨリさ〜ん、来れないと思ったよ。よかったねー!」
「執念で辿り着来ましたー。」
涙のハグ、ハグ、ハグ。
しかし、来れないと思われていたと言うことは、置き去りにされる可能性もあったという事なのか?
考えるだけでも恐ろしい。
地獄体験談が長くなってしまったが、無事国内線にも搭乗できメリダに到着した。
そこからは陸路とボートで1日かけてカタトゥンボへ移動する。
翌朝、車でマラカイボ湖畔プエルト・コンチャへと移動開始。
寄り道しなければ4時間ほどのドライブだ。
ハヒ (Jaji)という標高1,800mの山あいの小さな村で休憩を取った。
ここは450年ほど前にスペイン人に征服されるまで、ハヒ族 (Jajies) と名乗るインディオの部族が住んでいた場所で、それが地名の由来なのだそう。
山に作られた村は急斜面を舐めるように石畳が敷き詰められ、建物も斜め仕様。
平衡感覚が狂ってきそうだが、生活するだけでガッツリ足腰が鍛えられる”高負荷坂道筋トレ村”なのであった。
古い教会前の公園ではきちんと感のある中学生たちが集まっておしゃべりをしていた。
あの子たちなら、コンビニがあってもしゃがみ込んでたむろする事はないんだろうなあ。
実に穏やかな時間の流れる村だった。
山を下って、だんだん道も平らになってきた。
途中、手作り砂糖を作っている製糖所を訪ねた。
甘いような香ばしいような香りが漂ってきて、なぜか神社の縁日が頭をよぎった。
あれだ、あれ。
懐かしのカルメ焼きとかべっこう飴の匂いだ。
子供の頃、縁日は夜の外出を許される特別な日だった記憶がある。
暗がりに木々のシルエットに包まれた神社が明るくポワッと浮き上がっていた。
賑やかなお祭りの音が聞こえてくる。
いつもの神社は、凛とした空気感があり少し緊張したものだが、縁日の日は楽しい異次元世界に迷い込んだ気分になった。
連なる屋台で出来た迷路の中をワクワクドキドキしながら練り歩く。
人気キャラの袋に入って得意げに並ぶ綿菓子。
氷の台座にお行儀良く並べられた宝石の様なあんず飴。
カラフルなヨーヨーや変な顔したセルロイド製のお面。
金魚すくいのポイ(昔はモナカの皮と針金で出来ていた)がふやけて金魚と一緒に崩れ落ちていく感触。
製糖所の甘い匂いで、一気にあの頃の縁日へとワープしてしまった。
昭和レトロ気分のまま奥に入っていくと、大きな歯車の圧搾機でサトウキビを絞っている最中だった。
見た目以上に水分を含んでいて、結構な量が絞れている。
その搾り汁を薪のかまどで煮詰め水分蒸発させると”パネラ”と呼ばれる未精製のサトウキビ糖ができるのだ。
仕上がりは、こげ茶色のレンガブロック状。
頂いた欠片を口に入れると、素朴でコクがありミネラルたっぷりな味がしてとても美味しい純黒糖だった。
買いたい衝動にかられるが、レンガブロックでこれ以上荷物を重くする訳にはいかないのね。
製糖所を後にし、ようやくボート乗り場に着いた。
そこから更に1時間程水上を移動し、なんとかかんとか目的地に到着したのであった。
そこは水上の掘立小屋だ。
間違ってもセレブ系な水上コテージをイメージしてはならない。
日差しや雨はなんとか防げそうな錆びついたトタン屋根の下にハンモックを吊るし、5人仲良く並んで寝る。
半端ないワイルドさが面白いじゃないの!
日本からはテレビ局の撮影隊くらいしか来た事がないらしい。
荷物を置きに仕切りの中に入ると、薄暗い中に裸のマネキン人形が立っていて「ひぃ〜」と一瞬背中が寒くなる。
わりと最近、ここに滞在した日本の民放番組制作クルーが置いていった撮影小道具のマネキンだった。
カタトゥンボは東西南を標高4,000m級のアンデス山脈に囲まれており、北側だけがカリブ海に向かって開いている。
夜になると、山から降りてきた冷たい空気と海から入り込んだ暖かく湿った空気がぶつかり合う。
その乱れが日中にできた積乱雲を更に成長させ、嵐と雷を発生させるのだとか。
夜が訪れ、遠くに雷が落ち始めた。
音はしないが絶えずどこかが光っている。
稲妻が積乱雲の中を走ると光が拡散され、もくもくした雲の全容が現れる。
それはまるで一瞬の命を授けられたかのように、光を纏って夜空を演出する。
空全体が神々しい舞台となった。
しかし、期待とは裏腹に嵐には発達せず、そのうち雷光も去ってしまった。
今夜はダメだったか……。
満月を翌日に迎える月が時折り雲間から顔を覗かせ、我々を慰めるかのように水面まで届く光芒・天使の梯子を作ってくれた。
もう夜が明ける時間に近いのではないだろうか。
ハンモックに身を投げ出すも、時差ボケのせいなのか満月の引力のせいなのかうまく寝付けない。
なんとなく心が小さくざわめいたので桟橋に出ると、暗がりからシショーの声が聞こえてきた。
「出てる、出てる!」
何かが目に入った。薄ぼんやりしたアーチのような…
「高砂さん、あれってもしかして…?」
「ナイトレインボー!!」
これぞ高砂マジック!虹がシショーを追いかけてきた。
カタトゥンボの集落を優しく包むように夜の虹が架かっている。
月は雲に半分隠れており光が弱いため、そのアーチは淡く儚げで今にも消え入りそうだ。
でも確かに存在している。
夢に見た憧れの光景を今この目で見ているのだ。
雷を撮りに来たのに、まさか本物のナイトレインボーに遭遇できちゃうなんて!
激しく感動した。魂が震えた。
まさに地獄の後の天国だった。
もう雷見れなくてもいいくらい満足してしまった。
🌈✨夜空に虹が架かる時、それは最高の祝福を授けられる時。
「強く望み、そして信じなさい。」
と言われたような気がした。
No Rain, No Rainbow(雨降らずして、虹架からず)という、あのハワイの諺(1話参照)の通りだった。
翌日は念願の超ド級の大嵐にも恵まれ、雷三昧!イエイ!
その様子はこちらでご覧頂けます。
『雷が世界一多いベネズエラ・カタトゥンボに行ってみた!ギネス記録納得の雷がヤバい!音しない雷・スパイダー雷の写真も公開!』
後日談だか、フライトが消えた理由を航空会社は”空港インフラの不備”と説明したが、どうもベネズエラに全てのフライトを離発着させないといった政治的制裁の絡みがあったようだ。
その決定が突如発令されたのが私の搭乗日だったというわけ。
追加購入したチケットUS2,000ドルは海外旅行保険で全額支払ってもらえた。
消えたフライト分は航空会社に返金してもらえたから、その分儲かっちゃった。
めでたしめでたし。
ちなみに、カラカスからシドニーに戻る時にもアクシデントは続いたわけだが、それは行きの100倍とんでもないものだった。
それはまた別の機会に書くとしよう。
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