写真と旅をこよなく愛するフォトラベラーYoriです。
地球は天の川やオーロラなど神秘的な光景を見せてくれますが、稀に夜空をキャンバスに虹を描いてくれることがあるのです。
ナイトレインボー、ルナレインボー、ムーンボーとも呼ばれる大変珍しい虹。
ハワイでは「夜の虹は見た者にとって最高の祝福」と遠い昔から言い伝えられてきました。
今回のフォトエッセイは、私が今までに遭遇した四つの大陸の「夜の虹」と「のようなもの」を旅のエピソードとともに綴りました。
4話連載、今回が最終回です。
場所はアフリカのビクトリアフォールズ。
夜の虹の写真を通して、最高の祝福をお受け取りください🌈✨
第1話はこちら。
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大陸4・アフリカ|ジンバブエ・ビクトリアの滝
私は欲深い女だ。
死ぬまでにせめて1度はこの目で見てみたいと願った「夜の虹」と遭遇できたにも関わらず、もう1度あの感動に震えたいと想いを募らせてしまうのだ。
欲を言えば、もうちょっとハッキリとしたのが見たいな。
欲を言えば、もうちょっと色付いたのが見たいな。
欲を言えば、見るだけでなくバッチリ写真にも収めたいな。
どこまでも欲まみれだ。
夢が次々と増えていく。
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夢といえば、幼い頃の自分は「白馬に乗った王子さま」との出会いを夢見る少女……とはほど遠く「白いライオン・ジャングル大帝レオ」とじゃれ合うことを夢見る子供だった。
動物のぬいぐるみに囲まれていれば幸せで、お人形遊びはもちろん苦手だ。
おままごとにしても、お母さん役とか子供役などは喜んで辞退し、率先してペットの犬や猫になっていた。
おままごとって、そもそも日常家庭生活を真似して、それぞれの役を演じちゃおうというものなのに、私はワンとかニャーとしか言わない。
どちらかというと、よりリアルに「ワン、ニャ〜」を発することに燃えていたような気がする。
動物好きなその子がブレずに持ち続けていた夢が、アフリカ大陸大冒険だ。
ずいぶん時間がかかったが、南アフリカとボツワナへの撮影旅行でついに実現した。
コロナ禍がやっと落ち着き始めた2022年9月の事だった。
朝から晩までサファリ三昧。
動物たちの輝く命の力強さに身震いする感動的な日々を過ごした。
サファリカーのすぐ真横をじゃれ合いながら走っていくライオンの子供たち、たった数メートル先で毛繕いをする美しいヒョウ。
あぁ、もうネコ科好きにはたまらない。
ファインダー越しに見ていると我を忘れて吸い込まれてしまうのよ。
ガイドさんには「私が、彼らをナデナデしたい衝動を抑えきれず車から降りようとしたら止めてくれ」と真面目に頼んでおいた。
野生動物と想像以上の至近距離で会える事も驚きだったが、遠くに見えるキリンやゾウの姿が実はサファリならではの贅沢なシーンだと気付き、また感動した。
動物園って狭い囲いの中だからキリンもゾウもすぐ目の前にいるでしょう。
地平線を悠々と歩く彼らの姿はサファリでしか拝めないお宝だったのだ。
この旅を更に感動的にしてくれたのが、テントに泊まるキャンプステイだ。
当たり前のようにゾウの群れがキャンプ場脇を横切っていくし、夜になれば暗闇から動物たちの吠え声が聞こえてくる。
焚き火から舞い上がる火の粉は、夜空を敷き詰めている星の1部になっていった。
人類の祖先が生まれた大地に触れながら、地球との一体感が日々高まってくる感覚は今までに体験したことのないものだった。
ロッジに比べれば多少の不便さはあるものの、設営から食事の用意まで全てスタッフが細やかに整えてくれるので、満足度は五つ星以上だった。
ハマる系のヤツだ。
何よりも、私たちが去った後この場所を自然へそのまま返せることが素晴らしい。
最近注目されている「サステナブルな旅」の究極版なのだ。
「アフリカの水を飲んだ者はアフリカに帰る」という言葉があると聞いたので、「ならばそれに便乗すべし」と毎日たっぷり飲んでみた。
それが功を成したのか、ボツワナで撮った写真をSNSでしつこく投稿していたせいなのか、仲間内で「ボツワナの世界遺産オカバンゴ・デルタでテントキャンプサファリしよー!」という話が持ち上がった。
(フォトラベラー Yoriの Facebook、Instagram、X・旧Twitter)
ボツワナロスに悶えていた私には渡りに船だ。
せっかくだからサファリだけではなく、隣国のザンビアとジンバブエに横たわる世界三大瀑布の一つ「ビクトリアフォールズ」にも行きたいじゃないの!と欲深い私は考える。
なぜなら、あの「夜の虹」に出会えるかもしれないからだ。
月光が、滝から舞い上がる水煙をキャンバスに夜の虹を描いてくれる可能性がある。
虹追い人の為に、国立公園は満月とその前後の計3日間だけ夜間にも開園されるのだ。
「ハッキリとして色付いた虹」を強く望む私は普通の満月だけでは物足りず、その年最大のスーパームーンの日があたるように日程を組んだ。
雲さえ出なければ月光の明るさ最強なので、虹もハッキリくっきり七色に見えるはずっ。
ザンビア側とジンバブエ側、両サイドから滝の表情の違いを楽しむ為に1泊ずつ滞在する。
夜の虹遭遇チャンスは2回だ。
その後、オカバンゴに向けてサファリをしながら移動する。
日本から男子3名、シドニーから女子5名、計8名の名付けて「チーム・オカバンGO」が結成された。
私はオカ番長として君臨するのだ。
準備も整い2023年8月29日に南アフリカ・ヨハネスブルグに集結した。
翌日、ビクトリアフォールズ観光の玄関口であるザンビアのリビングストン空港へ飛んだ。
まもなく到着する機内からは、遠くに噴き上がる滝の水飛沫が見えてきて、いやが上にも盛り上がる。
タラップを降りガソリンの臭いが漂う熱いアスファルトを歩いていると、こんな場所にも関わらず、どこからかモンキチョウが現れてヒラヒラと我々についてきた。
まるで「アフリカへようこそ」と迎えてくれているようだった。
+++
ロッジにチェックインした後、早速昼間のビクトリアフォールズへと出発した。
ザンビア共和国とジンバブエ共和国をまたがるこの巨大瀑布は、幅およそ2km、落差108m。
地元の民族からはMosi-oa-Tunya「雷鳴の轟く水煙」と呼ばれており、ユネスコ世界遺産にも登録されている。
国立公園に入るとさっそく滝の音がゴウゴウと響いてきた。
ドキドキしながら歩みを進めると、木々の間に現れたのはドーーンと巨大な地球の亀裂!
光を受けながら湧き上がる水煙の演出で、映画史上に残るスペクタクルな名シーンが思い出された。
『十戒』でモーゼが海を割るあの情景だ。(リンクの紹介動画でそのシーンが一瞬見れます)
迫力に圧倒されながら水流を見ていたら、落差の大きい滝の水というのは岩肌をただ滑らかに落下するのではない事に気付いた。
勢い良く落ちる白い流れの中から水の手が伸び、それを追いかけるようにまた水の手が伸びる。
その様子がスローモーションで繰り返されているのだ。
豪快な水の追いかけっこは、黒い岩壁とのコントラストで一層活気付き、ドラマチックに繰り広げられていた。
地球の亀裂に沿って歩いていると、楽しいものが目に飛び込んできた。
色鮮やかな虹がスーッと岩壁から生えていたのだ。
滝と並んで両者ともご機嫌な様子。
私もつられて笑顔になる。
しかし、水量は想像していたものよりは控えめだった。
この年は例年に比べて水量が少ない事と、ザンビア側には上流に水力発電所があるのが原因らしい。
そしてガイドさんから残念な報告があった。
夜の虹見学は、水飛沫が十分でないという理由から国立公園の判断で中止になったというのだ。
4月頃の水ピーク時期だと、その激流が作る500m以上舞い上がった水煙が土砂降りの雨のごとく降りかかってくる為、ずぶ濡れ覚悟で臨まないといけないらしい。
それはそれでとっても面白そうだが、撮影にはいただけない。
一般的に観光のベストシーズンは6〜8月と言われているから問題無いはずだったのに、またもや想定外事態発生やん。泣けてくる。
したがってザンビア側で夜の虹を撮影するなら、6〜7月に訪れるのがベストのようだ。
満月日が2回あるとすると、国立公園が夜に開園するのは年間にたったの6日しか無い計算になる。
夜の虹がますます愛おしくなってきた。
明日のジンバブエに望みを託すしかない。
ワンチャンスに賭けるのだ。
水辺にあるロッジに戻るとゾウたちが水を飲みに来ており、その愛らしい姿にしょんぼり気分が癒された。
夜の予定が無くなってしまったので、川沿いの屋外レストランでのんびり夕食を食べながらの残念会となった。
カバも現れるというその川には、葉の付け根がぷっくり膨らんだホテイアオイがぎっしり所狭しと浮かんでいる。
水も時間もゆっくりと流れていく潤いのある空気感が非常に心地良い。
が、蚊の襲撃がもれなく付いてくる。
陽が落ち星が瞬き始めると所々にライトが点灯され、アフリカ風あづまやの佇まいはムード満点になった。
が、ライトの光の中には羽虫が寄ってたかって作った蚊柱が出現し、思いっきりのけぞった。
気休めでもマラリア予防薬を飲んでいて良かったわー。
虫除け塗り残し部分が痒いのねー。
夜空でまんまるお月さんがくすくす笑ってこっちを見ていた。
朝を迎え、ビクトリアフォールズ橋を渡りジンバブエ側に移動した。
早速滝の見学だ。
同じ時とは思えないほど、ジンバブエ側は水量が豊富だった。
水飛沫も高く舞い上がり、虹が我々を追いかけてくる。
滝の水は巨大渓谷の間を蛇行するザンベジ川に飲み込まれていく。
川による侵食が進み、500年も経つともう一つ渓谷が出来上がるのだそう。
地球は力強く生き続けているのだ。
広大な平原に走るこの深い亀裂は、10万年以上もの年月をかけて今の姿になったという。
垂直に切り立つ岩壁には地球の記憶が積み重なっている事だろう。
国立公園最端からの景観は、そんな事を思わせる荘厳な眺めだった。
天気も良く、水煙も充分上がっている。
今夜は虹との遭遇が期待できるぞ!
+++
18:30に迎えが来た。
国立公園入り口には我々が一番乗りだったが、徐々に人が増え40人程が集まった。
レンジャーが夜の公園と虹の状態を確認して開園を決定するまで中には入れない。
1時間ほど待たされただろうか、ついにゲートが開かれた。
「レンジャーの後について行くこと。コブラなどが潜んでいるので遊歩道以外の場所には入らないこと」などのレクチャーを受け、いよいよ出発!
満月の夜はミステリアスだ。
遊歩道とはいえ、暗いジャングルを行く探検隊のような気分になってくる。
夜行性動物たちは「なんだなんだ」と暗闇から我々を覗いている事だろう。
木々のシルエットの間からチラチラ顔を覗かせる満月が、夢の世界へと導いてくれているようだ。
もうすぐ夜の虹に会えるのかと思うと、時折降りかかってくる水飛沫にすら笑顔がこぼれた。
夜の滝が作る雷鳴は、昼間よりもずっと大きく鳴り響いているように感じる。
ゴウ〜ゴウ〜、ゴウ〜ゴウ〜。
木々のトンネルを抜けると…突然視界が開けた。
そこには神々しいほど美しい七色の夜の虹が浮かんでいた。
まるで地球と宇宙を繋げる架け橋のようではないか。
心奪われ、水の音も人々の歓喜の声も全て消え去り、何も聞こえなくなった。
静寂の中で、夜の虹と滝と私が三位一体となった世界に、深く深く浸っていく……。
突然全身に降りかかった大粒水飛沫で意識が戻った。
感動の涙と飛沫で顔がぐちゃぐちゃだったが、この光景を見る事を許してくれた天に感謝し、丁寧に写真を撮った。
夜の虹は動いていた。
手招きするように伸びたり縮んだりしていた。
舞い上がり踊る水煙に描かれるから虹も一緒に動くという理屈はわかるが、意志を持っているかのように見えてくるのだ。
奇跡的遭遇というフィルターをかければ、偶然現れたベネズエラ・カタトゥンボの夜の虹ほど感動的なものはない。
しかし、ビクトリアフォールズのそれは条件が揃えばそこに現れるという予想可能な現象だ。
それでもこの「ハッキリくっきり七色の虹」が夜空に架かるのを見れば、誰でも感謝の気持ちが溢れ至福の波動に包まれるだろう。
ふと、ジンバブエに到着した時に我々についてきたモンキチョウの事を思い出した。
多くの先住民族の伝承では、蝶は天からの言葉を伝えるメッセンジャーだと信じられてきた。
総じて生命と再生の象徴だったり、好天の兆しだったり、警告だったりするが、モンキチョウの場合は「忍耐の後の幸運」という意味もあるらしい。
あの時の蝶は「一度はチャンスを逃すけれど、ちゃんと夜の虹に会えるからね!」と伝えてくれたのかもしれない。
ありがとう。欲深い女でも200%満足する幻想的な光景に出会えたよ。
そういえば、あのアクシデント大連発のベネズエラ・カタトゥンボの旅(第2話)でも黄色い蝶が現れた。
「あなたの頑張りを天はちゃんと見ていたよ」というメッセージを届けてくれたのかもしれない。
そのご褒美が夜の虹だったんだ、きっと。
🌈✨夜空に虹が架かる時、それは最高の祝福を授けられる時。
「夢があるなら叶うのを待っていないで、ワクワクしながら捕まえに行けばいいのさ。」
と言われた気がした。
次の夢に向かって、勇気を出して踏み出してみよう。
新しい道が開けるかもしれない。
地球の光を求めて、私の旅はまだまだ続く。
完
望み通りの旅を作ってくれる Onlyone Travel、Onlyone Africaさんに感謝です。ありがとうございました。
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