連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第15話
*次の目的地、世界遺産オカバンゴデルタに向かうため今日でお別れのマシャトゥ。PULAの気配がする中、ゾウの御一行様が盛大なお見送りをしてくれた。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 15 <ボツワナスーパードライ共和国>
PULAの気配
今日はいよいよ魔法のオアシス、世界遺産オカバンゴ・デルタ観光の拠点となっている町マウンを目指す。
およそ1000km、10〜12時間の長いドライブになるらしい。
車中で食べるようにとロッジが朝食を持たせてくれた。
プラ袋ではなく紙袋に入っており、エコ意識の高さが感じられて嬉しくなる。
空は低く、重そうな灰色に覆われていた。
リチャードの「今日は少し雨が降るかもしれないよ。雨季が始まれば草が芽吹き、隣のジンバブエから動物たちが戻ってくるんだ」と話す表情が嬉しそう。
前回はいつ雨が降ったのか尋ねると「雨らしい雨が降ったのは2年くらい前だったかなあ」と言う。
厳しい干ばつの異常気象が続いているようだ。
恵みのPULAが待ち遠しいことだろう。
マシャトゥやその周辺では、南アフリカからパイプで送られてくる水と、近くのリンポポ川の水を浄水したもので賄っているそう。
生きるために水は必要不可欠だが、値上がりが続く水道料金が家計の大きな負担になっており、民衆は政府に抗議しているのだという。
電気も南アフリカから供給されているが、マシャトゥではソーラーパネルを併用していて、今後、全てをソーラーに変えていく計画があると話してくれた。
自然を守る??
迎えに来た車に乗り変え、荒野に向かって出発した。
広大なマシャトゥ動物保護区から出るだけでも2時間近くかかる。
ここはブッシュマンとして知られる世界最古の狩猟採集民族・サン族の人々が、少なくとも12万年前から生きてきた「人類の起源」とも言える大地なのだ。
第7話で、ボツワナの初代大統領の活躍や経済成長の優等生っぷりを前述したが、違う角度から見ると大きな犠牲も伴っている。
国を生まれ変わらせる原動力となったダイヤモンド発掘のために、ブッシュマンたちは太古の昔から生活をしてきた土地を追い出されてしまったのだ。
そして動物保護の観点から狩猟禁止、定住を強制された。
地球と完全に共存して生き抜いてきたというのに「貨幣」というものがないと生きていかれない世の中に引きずり込まれてしまった。
貨幣経済に馴染めない彼らに対し政府は住居や生活費などをサポートしているが、ブッシュマンたちが受け継いできた知恵の継承の火は消えかかっているという。
アメリカの先住民、オーストラリアのアボリジニ人、日本のアイヌ民族も然り、彼らの文化継承は困難をきわめているのが現実だろう。
悠久の昔から続く先住民たちの教えには不思議と多くの共通点がある。
例えば「全ての物象・現象に霊的存在が宿っている」というアニミズムな概念もその一つ。
八百万の神《やおよろずのかみ》を知り、森羅万象、トイレにだって神様が宿ると考える日本人には馴染みのある世界観であろう。
いずれも「自然への畏敬の念」から生じた概念だと考えられている。
彼らはその偉大で時に残酷な自然を前に、人間はいかに無力であるかを熟知していた。
先住民の伝承の中にこそ、現代社会を生きる私たちが学ぶべき真理があるはずだ。
しかし、物事を貨幣経済のものさしだけで測り、自然をないがしろにし、地球上で人間こそが特別で最上位にあると考える人はまだまだ多い。
私はよく耳にする「自然を守ろう、地球を守ろう」という言葉に対し、どうしても違和感を覚えてしまう。
守る?
それってとても上から目線じゃない?
何かしらの企業利益や私利私欲、あるいは「より便利で快適な日々の生活のため」に自然界のバランスを破壊しているのは、私を含め人間だけだ。
それなのに、散々壊しておいて「守ろう」などと言うのは虫が良すぎると思ってしまうのだ。
もちろん前後に置く言葉で解釈が変わってくるだろうが、私には「寄り添う」とか「邪魔しない」といった言葉の方がしっくりくる。
自然界はすでに絶妙のバランスで調和しているのだから、人間はその営みを極力邪魔しないように生きるのが最善かと思うのだ。
自然と寄り添い、地球の営みをできる限り邪魔しない。
水の惑星・地球を敬う気持ちを胸に、そんな生き方を選んでいきたい。
我々が住んでいる美しい星なのだから。
+++
土煙を巻き上げ人類起源の大地を疾走していた車が突然——止まった。
同乗していたマシャトゥロッジのマネージャーが車から飛び降り何かを回収している。
それは1本のペットボトルだった。
私だったら遠慮が勝り、疾走している車に「止めて」とは声に出せなかったであろう。
彼女のような行動を積み重ねることが、地球の営みを敬い寄り添った生き方なのだ。
見習わなくてはいけない。
さらばマシャトゥ
先は長いのだからどんどん進まなければならないのに、出会ってしまったのよ、大迫力の御一行様に。
さすがに素通りできず、ちょっと撮影タイム。
ファインダーの中でゾウたちは定員オーバーのすし詰め状態。
親ゾウも子ゾウも、我もわれもと賑やかにサヨナラを言ってくれているように見えてくる。
おしくらまんゾウおされてなくなよ、おチビちゃん。元気に大きくなるんだよ。
それにしても、フォト・ハイドは凄かった。(第13話)。
水があるからこそ動物たちが集まり、鏡面世界となって現れた奇跡の瞬間の数々に乾杯だ!
プラー、マシャトゥに祝福あれ!
+++
動物保護区から出た所で消毒を受けるために停車した。
車のタイヤだけでなく、我々の靴も消毒する。
ボツワナはヨーロッパ向けの牛肉輸出も主要産業であるため、バッファローやアンテロープ類がかかる口蹄疫という病気が牛などの家畜に感染するのを防ぐ必要があり、このような対策が取られている。
ここを境に、道路脇を歩く動物が家畜に変わった。
もう御一行様たちはいない。
【第16話に続く】<世界遺産へ Let’s オカバン Go!>
- 違いを生み出すのは、あなたです。
- なぜ奇跡?魔法のオアシス、オカバンゴ・デルタ
- 水辺のムファサ王
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
Source: Mashatu Game Reserve, BBC, HUFFPOST
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