連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第13話
*晴天無風に恵まれ、マシャトゥの秘密基地・ハイドの覗き窓からは完璧な鏡面世界が広がっていた。そこに念願のゾウの御一行様がドーンと到着!圧倒的迫力に身悶える!天空の鏡・ウユニでのエピソードと写真も掲載。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 13
鏡面世界でおこぼれにあずかる
マシャトゥにいる間、秘密基地フォト・ハイドでの撮影は朝1回と午後2回、計3回のチャンスがある。
2回目の今日は貴重な朝ハイドだ。
スッキリ晴れて全くの無風のため、水面は見事なほどに鏡と化している。
撮影には完璧な状況ではないか!
「やっぱりシショー、持ってるよねー」
スナイパー・トムとオンリー山と私は大きく頷く。
シショーはどこに行っても必ず神懸ったシチュエーションを引き寄せてくれるのだ。
神懸かったと言えば、南米ボリビアの「天空の鏡」と呼ばれるウユニ塩湖へ行ったあの時もそうだった。
+++
私には「ウユニに行ったら宙に輝く天の川と水面に映る足元の天の川を一緒に写真に収めたい」という大きな夢があった。
しかし、これが撮れる条件を満たすには目眩がするほど高いハードルを超えなければならない。
まず、夜空が最も暗い新月の日を狙うこと。
月明かりは星の輝きを弱めてしまう。
次に、水面反射を撮りたいのだから雨季に行くこと。
乾季だと水は干上がり、乾いた塩が剥き出しの真っ白な大地だからだ。
水面が現れるのは雨季だけで、しかし当然のことながら雲や雨が多く、星空が隠される可能性が非常に高い。
そして無風であること。
さざ波が立つと水面に映った星が乱れてしまう。
厳しい条件と、富士山よりも高い標高およそ3,700mで高山病と戦いながらの撮影になる。
不安を抱えながら現地へ乗り込んだ。
しかしそんな心配をよそに、神様の微笑みとシショーの引き寄せマジックのお陰で、滞在した4日間、奇跡的にも毎日この条件が揃ってしまったのだ。
星以外には何も無い、しんと静まった群青色の空間で塩湖の水面に立った。
頭上の空には圧倒的な存在感で天の川がかかっており、足元の水面にはもう一つの天の川の煌めく宇宙が、どこまでも深く広がっていた。
自分の体が浮かび上がり無限の宇宙の真ん中を漂っている、そんな錯覚を覚えた。
自宅を出発した時は「もしウユニで天の川を見ることができたら、絶対にイイ写真を撮ってみせるゾ」と鼻息を荒くしていたのだが、二つの天の川の間で宇宙空間を浮遊するという体験をしてしまったら、そんな考えはおこがましくて恥ずかしくなってきた。
「私はこの奇跡に出会うことを許されたんだ。写真に収めることを許されたんだ」
そう気付き、神々しい美しさを損なわないよう心を込めて丁寧に撮影した。
魂が震え、感謝の気持ちが溢れて止まない時間となった。
同行していた添乗員さんは
「10回以上雨季のウユニを訪れているけれど、天の川をちゃんと拝めたのは、実は初めてなんです」
と誰よりも興奮しながら話してくれた。
+++
ベネズエラのカタトゥンボへ夜空を乱舞する雷を撮りに行った時も、シショーの引き寄せマジックであろう奇跡が起こった。
そこは「雷多発地帯」としてギネス世界記録認定されている全くもってクレイジーな場所。
年に250日以上雷が発生し、一晩に何千回も夜空がスパークする一帯だ。
水上に建つ掘建小屋に滞在し、雨はなんとか防げる錆びついたトタン屋根の下で雷を待ち、ベッドルームなんて無いのでそこにハンモックを吊るしてみんな仲良く並んで寝る、というワイルドっぷりが非日常すぎて面白くなってくる。
初日の夜は嵐が発生したものの、雷がバラバラドカンと落ちるような雷雨には発達しなかった。
しかし、巨大入道雲の中で雷光が走れば、拡散して膨らんだ光でもくもくの姿が一瞬だけ浮かび上がりドキドキしてくるし、一晩中続くスパークは、次に上がる花火を待っている時のようなワクワクで満たしてくれた。
夜明けに近い時間になっていたが、気持ちの高ぶりが収まらず皆寝れずにいた。
なんとなく胸騒ぎがしたので小屋から伸びる船着き場に出てみると、暗がりからシショーの声が聞こえてきた。
「出てる、出てる」
夜空に視線を向けると、何かが目に入った。
薄ぼんやりしたアーチのような——
「高砂さん、あれってもしかして」
「そう、ナイトレインボー!」
夜の虹が、虹の使いを追いかけてきた。
シショーは世界で初めてナイトレインボーを集めた写真集 『night rainbow-祝福の虹』(小学館)を世に送り出した虹の使いなのだ。
非常に珍しい現象で、ハワイでは古代より「見た者にとって最高の祝福、大きな変化の前触れ」と伝えられている。
雷の乱舞が狙いだったのに、それよりも先に死ぬまでに一度は見てみたかった憧れのナイトレインボーに遭遇してしまった。
月光が作り出す、どこまでも神秘的な夜の虹が目の前にかかっている。
私は夢幻をさまよっているのか?
空が少し白み始めた時間だったし、月光の強さが充分ではなかっため、現れた夜の虹はほのかでおぼろげではあったけれど、確かにそこに存在した。
雷を撮りにきたことをすっかり忘れてしまうほどに、心奪われ夢心地に浸った——
と、前置きが長くなったが、地球が味方についているシショーと冒険すれば、奇跡的なシャッターチャンスのおこぼれにあずかれるというわけだ。
今朝のマシャトゥは抜けるような青い空で風も無く、水面は鏡となり舞台は整っている。
あとは動物たちが現れるかどうかなのだが、それはシショーの不思議なマジックで引き寄せてもらえるから大丈夫。
で、今回もおこぼれ大発生の巻となったのであーる。
+++
一番手はホロホロ鳥軍団だ。
独特のフォルムの黒い体に細かく白い水玉模様を全身にまとった姿はとても美しい。
頭部の赤・青の差し色も効いていてなかなかファッショナブルな鳥なのだが滑稽さの方が勝ってしまうのは、集団わちゃわちゃが止まらないせいだろうか。
空へ伸びる螺旋状のツノを持つクードゥーや、エランド、インパラなどのアンテロープの群れが次々に登場。
彼らは場所がたっぷりあるにも関わらず肩を寄せ合い一塊りになって水を飲んでいる。
単独でいると肉食動物に狙われやすいからなのだろうか。
「近っ」などと文句言ってるヤカラはいないようだ。
水を飲む一頭の美しいクードゥと視線が絡んだ。
ファインダーの中で私は彼と一体となる。
カメラから目を離し水場全体を見渡せば、動物たちの完璧なリフレクションが水面に映り込んでいるではないか。
鏡面世界、楽しすぎるだろ!
ゾウ御一行様のおな〜り〜
さあ、さあ、やって参りました、ゾウの御一行様、ドーンと到着。
「ゾウを地面に潜って見上げる」ミッションが見事に達成だ。
目の前に迫る10頭以上の御一行様の迫力といったらもうハンパない。
鼻をホースのように使い水を吸い上げ口に運ぶ。
飲むたびに、大きな空のドラム缶に水を注いでいる音と表現したらよいのか「グワーン、グワーン」という低音で響きのある音が聞こえてくる。
まだまだたっぷり入りそうだ。
子ゾウが「ボクだって上手に飲めるんだゾウ」的な目線で我々を見下ろしながら水を口に運んでいるが、気が散っているせいか漏れ率多めなところが可愛い。
乾きの収まった子ゾウは、吸い込んだ水を鼻の穴から水鉄砲のように発射させて遊び始めた。
左右の鼻孔から勢い良く吹き出す水がキラキラと弧を描く。
御一行様の貫禄は他を寄せ付けず、気圧されたインパラたちは主役の座を明け渡しながらも、背後をウロウロして出番待ちをしている。鳥たちがさえずりながら頭上を飛び去った。
ああ、なんて平和な水辺の賑わい。
真正面にそびえ立った巨きなゾウが水を吸い上げた。
来るか?
次の瞬間
「ブワーーーッ」
と鼻から大噴射!
もう、カッコ良すぎて身悶える。
水紋アート
乾きを存分に潤した御一行様が去った後も、次から次へと動物たちが集まり水を飲む。
無風とはいえ飲む行為が水を揺らすので、残念ながらもう完璧なる鏡面世界は望めない感じ。
そこへシマウマの群れがやってきた。
ボディが単色の動物たちが続いたせいか、くっきりはっきりした白黒しま模様が目に鮮やかだ。
水面に視線を移してみれば、そこには映り込んだしま模様が左右に揺れる水にもてあそばれて見事な水紋アートを描いている。
地面を境にした、静と動の愉快なパラレルワールドの出現だった。
最高の演出と出演者に興奮し、脳内快楽物質が大量分泌され、本日のフォト・ハイド劇場公演は一生忘れられないおこぼれ頂戴となったのであった。
【第14話に続く】
<ボツワナスーパードライ共和国>
- 寝子な王様
- ヒョウからのお一人様ライフ考
- 各1。終了。
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
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