連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第2話
*機内の座席が「!!!」だった件と、時差ボケにやられたヨハネスブルグの朝。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
第1話はこちら。
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 2 <南アフリカレインボー共和国>
圧と闘う14時間
2022年9月7日、カンタス63便、シドニー発ヨハネスブルグ行き。いよいよだ。
多民族国家・多文化主義を掲げているオーストラリアには、私を含め人口の3割をも占める外国人が住んでいる。
世界各地で新型コロナウイルスに関する出入国の規制が緩み、数年ぶりに故郷を訪れる人たちが待ってましたとばかりに集中したようで、空港はごった返していた。
3時間も前に空港に到着していたにも関わらず、手荷物検査の長蛇の列を抜けたころにはもう時間の余裕は無く、焦る気持ちで搭乗ロビーへと急ぎ向かった。
すると、幸か不幸か出発が30分ほど遅れるというアナウンスが流れてきた。
せっかくだからこの時間を使って日本の家族に出発の挨拶をしておこうと母の携帯に電話をかけてみると、ありがたいことに今日は不携帯ではなく、すぐに出てくれた。
出発前の興奮も相まってぺちゃくちゃ勢い良く喋っていると、突然母が真面目な声で
「今まであなたが海外に行っても心配したことは無かったけれど、なんだか今回のアフリカは心配で……」
と、何やら物騒なことをいう。
「心配?」
「そう、心配なのよ」
「珍しいこと言うじゃない。何それ、出発間際に」
「だってアフリカが気に入っちゃって、現地で仕事をみつけたから帰らないとか言い出しそうだから」
「え、あ、そういう心配 !?」
すでにオーストラリアまで風呂敷を広げているから、これ以上広げて他国に踏み込むつもりは今のところ、ない。
「数年後、ボツワナでガイドとかやってたりしてねー。うそうそ、ないない、ご心配なく。では元気に行ってまいります!」
雑談を終わらせ搭乗の列に並んだ。
シドニー・ヨハネスブルグ路線は、アジア地域とは無関係な地球の下の方で横移動するからなのか、満席にも関わらず黄色人種は片手で数えられるほどしか見当たらない。
フライト時間は行きが14時間、帰りは11時間。
シドニー・東京路線はおよそ10時間だから大差はない。
それなりに長時間だが慣れた感はある。
が、しかしだ。
隣に座った人は「どうやってシートにお尻をおさめているのかしら」級の巨体オーストラリア人だったのだ。
横からの「圧」が続く14時間フライトがここに決定した。
圧の主は、巧みにジワジワと侵略を仕掛けてきた。
トイレに立とうものなら、我が領土は大きな損失を免れない状況である。
いかように保全すべきか。
奥の席には彼のお嬢さんが座っている。
ほぼ同サイズだ。
とても勝ち目は無い。
隙間も無い。
そして困ったことに、二人共とても感じが良い。
笑顔も良い。
(彼らに悪気は無いの。ただはみ出ちゃうだけなのよ)と自分に言い聞かせ、私も通路側にはみ出し気味に座り、両国の友好関係を保つことに尽力した。
長距離フライトは必ず出入りしやすい通路側の席を取るのだが、今回ほどそれをありがたく思ったことはない。
「いつか、お財布を気にせずビジネスクラスを利用できる人になってやる」と心に誓う空の旅となったのだった。
チーム・高砂、再集結!
平和維持活動を順調に遂行させ、「圧」で押し潰されることもなく無事ヨハネスブルグ空港に到着した。ここで3人の仲間たちと合流することになっている。
一人目は自然写真家・高砂淳二さん。以後、シショーと呼ばせていただく。
シショーは、世界でもっとも権威があると言われるロンドン自然史博物館主催の写真コンテストで、2022年に日本人初の最優秀賞(自然芸術部門)を受賞するという快挙を成し遂げたスゴい方なのだ。
二人目は、望遠レンズを構える姿が勇まし過ぎてスナイパーにしか見えない浅羽勤さん。
通称スナイパー・トム。
決して殺気立っているわけではない。
三人目は、いつもチーム・高砂の旅をオーガナイズしてくれる旅行代理店オンリーワントラベル代表の山田陽介さん。
オンリー山と呼ばせて頂こう。
シショーとスナイパー・トムは日本からドバイ経由で、オンリー山はケニアから、そして私はシドニーから。
地球のあちらこちらからヨハネスブルグに集結するにも関わらず、奇跡的にも全員が30分程度の時間差で、ほぼ同時刻に到着した。
シショーだけは税関で止められスーツケースをチェックされたとかで、一歩遅れて出てきた。
無事の再集結を祝い、ハグハグハグ!
何が税関で引っ掛かったのかと尋ねると、職員は何を調べるというわけでもなく、ただスーツケースを半開きにし、その陰で指ジェスチャーを使い「金よこせ」と言ってきたらしい。
「何の為の金だっ!」と一喝したらすぐに引き下がったそうだが、南アフリカはまだこんな感じ。
こうして2週間の旅が始まった。
+++
迎えに来た車に乗り込み移動開始。
南アフリカの公用語はなんと11語もあるのだが、ドライバーの彼はズール族の人で、英語とアフリカの言語7ヶ国語を操れるという。
言語能力の高さに舌を巻く。
30分ほどのドライブで白人が多く住む閑静なエリアにあるホテル Peech hotelに到着した。
治安の良さが肌でわかる。
ここは庭の手入れが隅々まで行き届いたお洒落なブティックホテルで、思いがけず桜の花が迎えてくれた。
そう、北半球と季節が真逆の南半球では、9月は春の始まりなのだ。
バルコニーからはぽってりした赤い夕陽を背景に、大きな鳥のシルエットが空を横切ってゆく姿が見えた。
おそらくアイビス、トキの一種だろう。
シドニーの街中でもアイビスをよく目にするが、日本の特別天然記念物「朱鷺」のイメージとは程遠く、白い羽は薄汚れ、ゴミをあさっては派手に散らかす何かと困った鳥なのだ。
ヨハネスブルグのアイビスも厄介者扱いをされているのだろうか。
アフリカといえども大都会での人との共存は何かと難しいだろうなあ、などと考えながら夕刻の茜色に包まれて、長時間フライト後の気怠さをぼんやりしながら味わった。
+++
夕食の後は明日からの旅に備えるため、早めにベッドに潜り込むことにした。
疲れた体はマットレスに深く沈み、すぐに意識が遠のいていった。
それなのに、午前2時なんていう中途半端な時間にスッキリ爽快に目が覚めてしまったではないか。
時差ボケだ。
しかしここで起床するわけにはいかないので、次の眠りへ向かってみる。
うつらうつら半分意識を残した睡眠のまま、午前4時にまたパッチリと目が覚めてしまった。
なるほど今は体内時計で言うと12時、ちょうどランチタイムか。
バルコニーに出てみると湿度の低いひんやりとした朝で、空にはオリオンがちゃんと逆立ちして瞬いている。
ちゃんとというのは、南半球から見るオリオン座は逆さまに見えるからだ。
14時間も飛行機で移動したというのに、天体の様子はいつも見ているのとあまり変わらない。
そういえば、ヨハネスブルグとシドニーはほぼ同緯度に位置するのだった。
しかし、聞こえてくる鳥たちのさえずりは聞いたことのない音色ばかり。
そう、ここはアフリカ大陸。
ついに来たのだ、憧れの地に。
【第3話に続く】
次回は、<南アフリカレインボー共和国>
- 寝不足時差ボケ脳の混乱
- 差異を孕む街
ワクワクする旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
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