連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第1話
*プロローグ
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅のフォトエッセイにして連載していきます。
未発表写真もたっぷり掲載。お楽しみに!
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 1
アフリカ冒険、そもそもの始まりは。
「野生のゾウをね、間近で下から見上げて写真が撮れるスゴい場所があるんだって」。
今回のアフリカ大冒険は、こんな高砂淳二さんの一言で始まった。
世界中がコロナロックダウンで国境を閉鎖し、シドニー在住の私は帰国する事ができなくなってしまっていた。
それもようやく緩和され、2022年3月、2年半ぶりの帰国が実現した。
写真バカ仲間たちに連絡すると、二つ返事で「集まろう!」と言ってくれて、有楽町の日本料理店に集合することになった。
こういう仲間って本当に素敵だ。
勝手に「チーム・高砂」とか呼んでいるが、過去数回このメンバーで地球の果てのような場所へ撮影の旅をしている。
久しぶりの再会に歓喜し、和食と日本酒が美味しすぎて脳がしびれ、今世紀最大というくらい酔っ払ってしまった。
そこで先ほどの発言があった訳だ。
「ゾウを間近で見上げるって??どゆこと?」
説明されても酔っ払いには良くわからない。
「場所はどこなんですか?」
「ボツワナ」
「え?ボスニア ヘルツェゴビナ?」
「アフリカだから。野生のゾウだし。。」
こんなに楽しく酔っ払って気が大きくなったところでこの提案、行かないという選択肢はもはや存在すらしなかった。
気がつけば半年後、南アフリカ・ヨハネスブルグの空港に集合していたのだった。
またがりが好き過ぎて止まらない。
幼い頃から動物が大好きだった。
女の子たちに大人気の「リカちゃん人形」には興味が持てず、どう関わったら良いのかわからないお人形遊びは苦手だった。
持っているのはぬいぐるみばかり。
それを全部ソファーに並べて真ん中に座り悦に入っているような子供だった。
おままごとにしても、お母さん役とか子供役などは喜んで辞退し、率先してペットの犬や猫になっていた。
おままごとって、そもそも日常家庭生活を真似して、それぞれの役を演じちゃおうというものなのに、私はワンとかニャーとしか言わない。
どちらかというと、よりリアルに「ワン、ニャ〜」を発することに燃えていたような気がする。

つかまり立ちが上手になってきた一歳を迎えた頃、生まれて初めて木馬に乗った。
これは自主的なものではなかったのだろうが、多分それ以来、動物を見る度に親に「乗りたい」とせがむ様になったのだと思う。
アルバムを見ると動物にまたがっている写真が呆れるほど沢山あるのだ。
七五三の記念撮影さえ木馬に乗ってしまっている。
いやはや、いやはや。
笑顔ではなく、真剣な表情でまたがっているが、これはもう完全に自分のイマジネーションの世界に浸ってしまっているからなのだ。
うっすらと記憶が残っている。

幼稚園に通っていた5歳の時、父と二人で九州へ旅をした。
川崎からカーフェリーで一泊かけて宮崎まで移動し、そこからドライブで福岡を目指す。
途中、熊本の草千里に寄ったのだが、多分そこでもせがんだのであろう。
「あの馬に乗りたい」と。
小さい子は普通大人と一緒に乗るそうだが、どうも一人で乗れると言ったらしい。

馬の背中はとても高く、白くて太くて長い首の向こうに、緑色の柔らかそうな原っぱが広がっている景色を今でもなんとなく覚えている。
背筋をピンと伸ばし、ワンピースを着た小猿ちゃんは威風堂々と馬の背に跨っているではないか。
まるで自分が馬を御しているかのように。
モンゴルに生まれても、充分やって行けたな。
民族の祭典・ナーダム祭の子供競馬だって制覇しちゃったかもしれないな。
アフリカゾウ・マコちゃんの背中で。
そんな私がアフリカと初めて触れ合ったのは、多摩動物公園のゾウのマコちゃんだった。
母の記憶が曖昧なのだが、園内散歩をするゾウに子供が乗せてもらえるというアナウンスを聞き、全力で走ったと。
普段はおっとり呑気な部類の人だが、稀にスイッチが入りパッションを爆発させてくれる。
当時4歳だった私の記憶はというと、突然猛ダッシュする母に引っ張られる腕の感触、絡まる足、流れる景色、人々の背中、そしてネズミ色の壁のような、、。
突然体がフワッと浮いたかと思えば、そこがマコちゃんの背中だった。

「高〜い!」
背中というより、首の位置に座る。
お兄さんが後ろから支えてくれているから全然怖くない。
マコちゃんの頭は平らで広々していて、真ん中に少し窪みがある。
今思えば、ちょっと子泣きじじいの頭っぽい形。
そこに4〜5cm程の長い毛が数本ずつ束になって、所々に生えている。
手のひらで触れてみる。
ちょっと硬くてチクッとした。
ザラザラと乾いた厚ぼったい肌の感じは今まで触れたことのない感触。
マコちゃんが大きな耳をパタパタさせる度に、私の足をフワッと撫でた。
視線を遠くに移すと、マコちゃんとアコちゃんが普段過ごしている広大な敷地の中にキリンやシマウマの姿が見え、眼下にはカメラを操作する母の姿があった。
その時に撮ってもらった私の表情の誇らしげなこと。
「マコちゃんとアコちゃんは、私の大好きな『ジャングル大帝』のレオが住んでいるアフリカという場所から来たのでしょう。そこに行けば、多摩動物公園みたいにレオに出てくる動物たちに会えるのかなあ。白いライオンもいるのかなぁ。」
小猿ちゃんのイマジネーションはどこまでも飛んで行く。

そんな子供の頃からの夢をもうすぐ叶えるのだ。
随分時間はかかったけれど、やっとその機会が訪れた。
夢は待っていないで、勇気を出してえいっと捕まえに行かないとね!
追記
東京都公式サイトの多摩動物公園情報で、園長からの「2022年3月12日にアフリカゾウのアコが死亡しました」というお知らせを目にした。
たった10ヶ月前までアコちゃんは生きていたんだ。
何度も会いに行けばよかった。
亡くなったのはちょうど私が2年半ぶりに日本へ帰国していた時ではないか。
後悔と切なさで涙がこぼれた。
この場を借りて、アコちゃんに沢山の感謝と冥福を祈ります。
【第2話に続く】
次回は、
- 圧と闘う14時間
- チーム・高砂、再集結!
の2章です。
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
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