連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第3話
*寝不足時差ボケ脳の混乱
*差異を孕む街
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 3 <南アフリカレインボー共和国>
寝不足時差ボケ脳の混乱
空がずいぶんと白んできた。
想定外の早起きになってしまったことだし、時差ボケ脳に活を入れねばと朝食前に散歩をすることにした。
ホテルのスタッフに確認したところ、周辺は富裕層が住む地域で治安が良く、一人で歩いても全く問題はないとのことだった。
標高1,800m、爽やかな朝の空気はどことなくシドニーと似ている。
公園へと続く小さな木立に入っていくと、親しみのある香りがすうっと鼻腔をかすめていった。
なんとユーカリの木々ではないか。
その向こうには、手のひらサイズの真っ赤な花をたわたわ付けてこんもり茂った木が見える。
花の形がボトルを洗うブラシに似ているため「ブラシの木」や「ボトルブラシ」と呼ばれているオーストラリア原産の金宝樹だ。
その周りではマイナバードがせわしなく鳴いている。
あらあら、次々と「いつもの感じ」が現れる。
公園の奥では、アカシアがぽんぽんふわふわした可愛らしい黄色の花を弾ける笑顔のように咲かせていた。
この花木はオーストラリアではワトルと呼ばれ、その中の一種ゴールデン・ワトルは国花でもある。
スポーツのナショナルチームのユニフォームカラーというのは、国旗の色を採用している国が多く見られるが、オーストラリアの場合は国旗の「赤・白・紺」ではなくゴールデン・ワトルの色「緑&ゴールド」が使われている。
春を告げワクワクを運んでくるこの花は、日本の桜のように特別な存在だ。そのワトルが目の前で咲き誇っているのだ。
「あれ、ここってシドニーじゃないよね?」
あまりにも似ている光景に、寝不足時差ボケ脳が混乱する。
朝露を乗せた芝生は朝日を受けてキラキラと輝き、その中をペットの犬たちがはしゃぎながら走り回っていた。
眼下にはヨハネスブルグの街が薄いもやに覆われて静かに横たわっており、街も寝起きでぼんやりしているかのように見える。
小腹も空いてきたので、そろそろホテルに戻るとしよう。
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「おはようございまーす」
仲間たちが揃ったところで朝食をオーダーした。
メニューはヨーロッパスタイルで、私はフルーツヨーグルトとスモークサーモンのベーグルサンドを選んだ。
馴染みある味を美味しく頂いていたら、感覚がまたシドニーに引き戻されそうになる。
「時差ボケなのかちゃんと眠れなくて、散歩に行ってきました」
「俺も早くに目が覚めちゃって、バルコニーで瞑想していたよ」
そうおっしゃるシショーは今回の旅の直前までカナダでのお仕事が入っていて、いったん日本に戻るや否やすぐにアフリカへ飛び立ったのだそう。
長いコロナ禍で失った海外での撮影機会を取り戻すかのように、忙しい日々を過ごしていらっしゃる。
いったい今の体内時計はどこの国の時間を指しているのだろう。
Yori「カナダはどちらに行かれていたのですか?」
シショー「トロントで滝とかの撮影。良かったよ〜。あれ、なんかお腹いっぱいになったら眠気が戻ってトロンとしてきちゃった。トロントなだけに…。」
はい、ありがとうございます。
恒例のダジャレパンチで私の目はしっかり覚めました。
シショーとの撮影旅行は、このパンチがもれなくたっぷり付いてきて逃げられない。
魂が震えるほどに幻想的で、地球の波動を余すことなく放っているシショーの作品からは全く想像できないけれど、彼は筋金入りのダジャレ王でもあるのだ。
誰も止めることはできない。
差異を孕む街
サバンナに生きる動物たちと会う前に、この日は南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策とその撤廃を実現させたノーベル平和賞受賞者のネルソン・マンデラ元大統領の偉業について触れる日に充てている。
「アパルトヘイト」とは、南アフリカの白人が使うアフリカーンス語の「分離」や「隔てられた状態」を意味する言葉で、その政策は少数派の白人が絶対的優位に立つ社会を確立させるために有色人種に対してとられていた人種隔離のことだ。
南アフリカを訪れたら、文字で読む歴史としてではなく、肌で感じ取りながら学びたいと思っていた。
ホテルから程近い場所にホートンエステートという豪邸が立ち並ぶ地域がある。その一角のフォースストリートに、マンデラ氏が晩年に過ごした邸宅が有るというので立ち寄った。
邸宅前の植え込みの根元には、何やら文字の書かれた石がいくつも置かれていた。
よく見ると「We need dreamers (我々には夢追う者たちが必要だ)」「PEACE & LOVE (平和と愛)」などのメッセージが添えられている。
ガイドによると、マンデラ氏が2013年にこの自宅で95歳の生涯を閉じた後にも、誕生日になると心ある人たちからこのようなメッセージが届くのだそう。
彼の偉業は過去に終わった歴史の1ページではなく、人々の心にしっかりと刻まれていた。
道の両側に並ぶジャカランダの木々は、行き交う人々を歓迎するかのように大きく両手を広げている。
満開になる11月には紫色の花のトンネルに姿を変え、甘い香りを漂わせ、さぞかし華やかにこの豪邸街を彩ることだろう。
+++
富裕層の住む地域から人で賑わう繁華街に降りてくると、満たしている空気が一変した。
区画ごとに異なる民族が集まっているそうで、道を挟んだだけで雰囲気はガラリと変わる。
街全体を覆うザラザラとした空気の粒子は不均等で、互いにぶつかり合っているように感じた。
車中から携帯電話で写真を撮っていたのだが、ドライバーが「手を突っ込んできて引ったくられるかもしれないから、窓を閉めて!」と注意してくれた。
車中にいても油断がならないことにハッとし背筋が伸びた。
信号で止まった車の窓を割り貴重品を奪うといった犯罪は日常的に発生しており、街の中心部では銃器を使用した強盗も多発していると、外務省海外安全ホームページにも2024年2月現在有効な情報として記されている。
世界的に見ても、南アフリカは一般犯罪が最も多い国の一つとされています。殺人、強盗、傷害等の凶悪犯罪が高水準で発生しています。都市の中心地では銃器を使用した強盗が多発していますので、徒歩移動は控えてください。
右も左もわからない旅行者は格好の餌食となってしまうので、繁華街の徒歩移動は避けなければいけない。
だからといって南アフリカ全体が危険なわけではなく、信頼できるガイドと行動を共にしたりツアーに参加すれば何も問題はない。
海・陸の大自然絶景スポットの多様さ、サファリ体験、ワイナリーやグルメ、そして文化や歴史探訪などなど、南アフリカは多彩な魅力が満載の国なのだ!
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緊張感を伴う繁華街を抜け、我々はアパルトヘイト時代の南アフリカを知るために、コンスティテューションヒルへと移動した。
そこには、かつて刑務所や軍事要塞として利用されていた施設が当時のままの状態で公開されている。
ネルソン・マンデラ氏やマハトマ・ガンジー氏も投獄された経緯のあるその場所で、我々は人間のあまりの愚かさに直面することになる。
しかし、目を逸らしてはいけない。
【第4話に続く】
次回は、アパルトヘイト時代の人間の愚かさに触れ、心折れ、でもある物が励ましてくれお話し。
<南アフリカレインボー共和国>
- 黒く重い歴史
- 刻まれたモーセの十戒?
- 希望の虹
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
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