連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第6話
*南アフリカから野生王国ボツワナへ大移動。その途中、驚異的な器用さで仕事を進める機織り師?たちのマイホーム建築現場?に遭遇した。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 6 <南アフリカレインボー共和国>
南ア北上500キロ
5時30分起床。空が真っ赤に燃えている。
今日はヨハネスブルグからひたすら北へ進路をとり、国境を超え、ボツワナのマシャトゥ動物保護区へと陸路で向かう。
およそ530km、6時間の運転をしてくれるのは、オランダ人の両親の元に南アフリカで生まれ育ったというニックさん。
現在はリタイアして長距離ドライバーになったが、マンデラ氏が大統領になる前後の計40年間を警察官として要人警護などの任務にあたっていたのだそう。
ヘクター・ピーターソン博物館で見た、学生デモとそれを鎮圧するために実力行使した警官たちのモノクロ写真が頭に浮かんだ。ニックさんは、あの写真の中に生きていた一人だった。
46年間続いたアパルトヘイト政策が撤廃され、17世紀半ばから300年以上続いた白人支配が終わった。
白人たちの立場はひっくり返り、憎しみを震わせる黒人たちからの報復を恐れに恐れた。
だが、黒人の新大統領は白人を非難することはせず、異人種が融和・共存する国の建設を目指した。
国だけでなく個々が価値観を大きく塗り替えなければならない激動の時代を生き抜いてきたのかと思うと、ニックさんの背中が大きく見えた。
ヨハネスブルグを出発して1時間が過ぎようとするころ、大きな町を通過した。南アフリカの首都は三つあり、立法首都・ケープタウン、司法首都・ブルームフォンテーン、そして今通過している行政首都・プレトリアだ。
通り沿いの病院に長い列ができていた。
ニックさんによると、南アフリカでは公立病院なら医療を無料で受けられるのだそう。
ただ、慢性的に医療従事者と備品不足のため受診までの時間はかかるし十分な治療が提供されていないのが実情で、病状が悪化して手遅れになってしまうことが少なくないという。
その点、私立医療機関だとその問題は軽減されるが、医療費が高額になる。経済格差が比例してしまうのは避けられないようだ。
患者と思われる人々が並ぶ長い列がずっしりと重く感じられた。
この町を過ぎると、道路の両側はただただ平たい景色に変わり、前方へ真っすぐ伸びる道路はひたすら地平線を追いかけている。
乾いた荒野、農地、荒野、農地の繰り返しで、自然とまぶたが重くなっていった。
鳥の世界も男はつらいよ
休憩に立ち寄ったサービスエリアの片隅に、たくさんの小さな丸い籠をぶら下げた木が立っており、不思議に思い近寄ってみた。
「うわ、これ全部鳥の巣なんだ」
作り始めや完成間近の巣の間を、色鮮やかな黄色い鳥たちが忙しそうに飛び回っている。
顔周りだけが黒く、赤い目と短くしっかりしたクチバシを持ち、大きさはスズメくらいの鳥だ。
この立木は、そのメンガタハタオリ(Southern masked weaver)のオスたちが、驚異的な器用さで草を編み込んでマイホームを作っている建築現場なのだった。
鳥の巣と聞くと中が窪んだお椀形を想像するが、この「機織り師」たちが作る巣はゆがみを持った球体の籠のような形で、出入口は下側に付いている。
複雑に編み込まれ、絶妙な曲線で形作られた巣はまるで芸術作品だ。
基礎部分を作っているのか、細長い葉を枝に巻きつけキュッと結んでいる1羽がいた。
お隣さんの物件は体より一回り大きな輪っかを編むところまで作業が進んでおり、草色のブランコに揺られ遊んでいるように見える姿が可愛らしい。
クチバシと足と本能だけで、よくもまぁこんな上手に編み物ができちゃうわね。
編み物が苦手で、正方形を目指して編んでも崩れた台形にしかならない私からすると、彼らの能力は神レベルに達しており見惚れてしまう。
巣作りはオスの仕事で、器用不器用の差はあるかもしれないが、なんと1〜2日あれば完成させられるという。
完成した巣にとまり羽をパタパタさせている機織り師もいるが、これは新築物件の仕上がりを見てもらうためにメスを呼んでいる行動だとか。
表面を滑らかに仕上げるのがコツらしく、メスは気に入らないとその巣を壊してしまうというからタイヘンだ。
「あら奥さんのとこ、良さそうなお部屋じゃない。うちなんて、ほら見て。肌触り悪くって気に入らないから壊してやったわよ」
「いえいえ奥さん、うちのなんて3度目の正直でやっとこさできたのよ。もっとしっかりしてもらわないと困るわよねえ、ホホホ」
と言ってるか言ってないかわからないけれど、鳥の世界も男はつらいよ、なのね。
+++
ボツワナ国境まで200km。
国境から一番近い大きな町ポロクワネで高速を降りた。
人口46万人だけあって人も多く活気がある。
ボツワナ国境まで200km。国境から一番近い大きな町ポロクワネで高速を降りた。
人口46万人だけあって人も多く活気がある。
大きな乗合バス・タクシーターミナルでは舞い上がる土埃の中で、利用希望者と離れた場所にいる運転手がジェスチャーでやりとりをしていた。
人差し指を立てて大きく上に上げるのは「長距離希望だよー」、下に向けると「短距離希望だよー」という意味なのだそう。
街を走る車のほとんどが日本の中古車だ。
中には日本語で「国産チキン」なんていう文字が堂々と残っている車もあったが、乗合バスに使われていなくてよかったよかった。
大地のポップアート
PolokwaneからR521をひたすら北上する。
農業エリアが続き、道路脇には家畜たちが道に出てこないよう電気柵が設置されていた。
後日、グーグルマップの航空写真モードでこの周辺の土地を見ていたら、ミステリーサークルのような色とりどりの大きな円が大地に水玉模様を作っていた。
何だろう?
調べてみると、これらは散水ロスが少なく生産性の高いセンターピボット灌漑《かんがい》を採用している農地が作り出した模様だということがわかった。
作物の種類の違いで水玉は緑や黄色や橙色に可愛く染められ、大地はまるでポップアートのキャンバスだ。
眠気を誘ってきた車中からの平坦な景色も、上から見ればこんなに愉快な眺めだと知り、何事も視点を変えれば別世界が広がるのだと改めて実感した。
心配ごとだって視点を変えれば意識も変わり、新しい発想が浮かび、上手くいくことだってたくさんありそうだ。
太陽が真上に移動し、車中も暑くなってきた。
外の気温は31.5度。
今は春だけど、夏に48度位まで上がった事もあったそう。
標高1300mもあるのにだ。
なだらかな景色だから感じないけど意外と標高が高い。
車はグングン進み、遠くの景色はゆっくりと流れていく。
手前に見える乾いた大地の木々は裸ん坊で、機織り師たちの作品がよく見える。
ボツワナまで、あともう一息!
次回は、
<ボツワナスーパードライ共和国>
- 兎にも角にもPULAなのだ!
- 知れば知るほどボツワナ愛が膨らんでしまうのよ
- 神懸かったタイミング
ワクワクの旅フォトエッセイ、お楽しみに!
出典:在南アフリカ共和国日本国大使館、Beauty of birds
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