フォトエッセイ

旅フォトエッセイ|9話『PULA!アフリカの魔法のオアシスへ』全25話連載

Pula フォトエッセイ Episode 9

連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第9話
*野生の王国のど真ん中に身を置いたら、地球にもっと寄り添いたくなった。美しい地球の未来のために、私たちが出来ることはなんだろうか?º

子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。

日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。

南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。

未発表写真もたっぷり掲載!

第1話はこちら

PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。

 

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Episode 9

世界最大の民間動物保護区マシャトゥ

アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ 朝焼けのシマウママシャトゥ動物保護区はカラハリ砂漠の東側に位置し、リンポポ川に沿った場所にあるため水を求めて動物たちが集まってくる手付かずの原野だ。

総面積31,000ha(琵琶湖の半分弱)、ゾウは900頭近く生息しており、鳥類に関しては2022年の時点で366種類が確認されている。

なんとこの広大な土地は私有地で、民間動物保護区としては世界最大の規模を誇るのだそう。

動物の行動を制限する柵などは存在しないため、隣接している南アフリカとジンバブエの国立公園に生息する動物たちがこの3か国を自由に行き来しているという。

アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ ヒメハチクイサハラ以南のアフリカに生息するヒメハチクイ

しかしニンゲンは勝手な出入りを許されてはいないので、マシャトゥ動物保護区内に宿泊する必要がある。

ここには離れた場所に6種類の宿泊施設が用意されており、太陽光発電を完備し環境への配慮を徹底したウルトラ豪華なヴィラをはじめ、ラグジュアリー・スイートのロッジや自然を満喫しながら素朴で快適なブッシュ体験ができるテントキャンプなどがある。

今回は2種類の宿泊施設を利用することになっており、始めの二晩はテントキャンプに滞在する。

テントと言っても外側を覆っているのがテント素材なだけで、あとは一般的なロッジと変わらない充実した設備。

違いはエアコンの有無くらいかな。

もちろん電気は通っているので、カメラバッテリーなどの充電は心配ない。

ベッドルームの奥にシャワーとトイレがあるのだが、このエリアだけは屋外だ。

清潔でお洒落で野性味に溢れ、来たぜアフリカ感をグイグイ盛り上げてくれる空間演出に心が弾む。

今夜は月と一緒にシャワーを浴びるとしよう。

アフリカ 旅行記 マシャトゥ 共有エリアマシャトゥ テントキャンプ共有エリア

レストランやバーのある共有エリアではスピードは遅いがWi-Fiも使える。

個人的には、日常を離れ異次元世界を旅している間のインターネット使用は極力避けたいと思っている。

俗界に引き戻され、せっかくの夢から覚めてしまうのがもったいないからだ。

それでも仕事などで必要な場合にはとてもありがたい。

設備や環境への配慮だけでなく、スタッフも気配りのある丁寧なサービスを提供してくれて大変心地良い。

なぜこうも気持ちがほっこりするのかなと考えてみると、どのスタッフも「気軽に話しかけてね」という感じの物柔らかな雰囲気と優しい微笑みをいつでも浮かべているからだ。

旅先で関わった人が魅力的だと、その場所の記憶がより鮮やかに色付くと感じたことがある。

雄大な景色を求め地球を一回りしたころから旅にお勧めの場所を尋ねられるようになった。

振り返ってみると、景色よりも先に親切にしてくれた気持ちの良い人たちの顔が不思議と浮かんできた。

そして彼らに出会った場所がいつしかお気に入りになっていた。

旅は未知の体験と、それを通して本来の自分に気付けるという絶対的な魅力を持っている。

それに惹かれてあちらこちらに出没しているが、地球はあまりにも壮大な舞台で、私はそこを右往左往してるちっぽけで頼りない生き物でしかない。

満喫しているつもりでも、いつもどこかで人心地を求めているのだろう。

だから旅先で贈られた笑顔や親切は記憶の色彩として塗り足されていくのかもしれない。

スタッフのすてきな笑顔に溢れたこのマシャトゥもコロナロックダウンの12か月間は営業することができなかったそうだが、全ての従業員に賃金を払い雇用を続けたのだという。

なるほど、彼らに働かされている感が無く生き生きとしているのは、このような従業員に対する企業の姿勢が反映しているからかもしれない。

そして下積み10年と言われるサファリガイドだが、マシャトゥはベテラン揃い。

中には40年のキャリアを持つ方もいらっしゃるとか。

私の記憶の中で、マシャトゥも鮮やかに色付きそうだ。

 

地球の未来が心配だから。

ボトル環境に対して意識の高いマシャトゥは、滞在者に保温・保冷ができるステンレス製のボトルを無料提供しており、水は給水ステーションやバーなどでいつでも補充することができる。

ペットボトルの使用を極力抑えるための地球にやさしいアクションに嬉しくなった。

私は炭酸水をよく飲むのだが、以前は1.5Lのペットボトルをほぼ1日おきに、それが当たり前のように買っていた。

1か月にするとおよそ20本、1年間で240本という計算になる。

私一人がこれをやめただけでも、かなりのエコにならないか?

そう気付いてからは、自宅で炭酸水を作りガラスのボトルに入れ替えるようにした。

浄水器はポット式を使用していたが、2〜3か月毎に交換が必要なカートリッジはかなりゴツいプラスチック容器だから、それもやめたくなった。

今はガラスのピッチャーに数本の備長炭を入れて浄水している。

備長炭は数か月経ったら煮沸・天日干しすれば効力が復活するそうだし、その後は消臭剤などにも使える地球にもお財布にも優しいスグレ物だ。

日本古来の知恵を使わない手はない。

さて、あなたは1年間に何本位のペットボトル商品を買って、捨てていますか?

外出先でペットボトル入りの水やお茶などを簡単に購入してはいませんか? 

もしそうなら、エコかっこいいマイボトルを見つけて新しいライフスタイルを始めてみませんか?

飲み物を毎日自分で用意するとなると手間は増えてしまうけれど、それは地球への愛情が増えたという証しだ。

+++

自然の写真を撮りに行っても、目にするのは美しい地球の姿ばかりではない。

波打ち際の窪みに溜まって、水面を怪しげにうごめいているプラスチックごみの塊などを見ると、やりきれない気持ちがどろどろと這い上がってくる。

最近目に付くのはコロナ対策で使用が増えた不織布製のマスクごみだ。

これもペットボトルと同じ合成樹脂でできているものが多い。

公益財団法人世界自然保護基金WWFによると、ペットボトルが分解されるには400年もかかり、それでも細かく分解されるだけで自然界に残り続けると考えられているのだそう。

プラスチックは製造から処分に至るまで二酸化炭素という温室効果ガスを大量に排出し地球温暖化の要因となり、それは近年世界中で頻発している異常気象の原因の一つだとも言われている。

陸から海へ押し出されたプラスチックは無くならず、海洋プラごみ汚染となる。

水深1万mのマリアナ海溝の海底にはプラごみのたまり場になっている場所が見つかっているし、深海生物の体内からもマイクロプラスチックが検出されたそう。

微粒子のマイクロプラスチックの場合、海中での食物連鎖を経て生態系へさまざまな負の影響をもたらし、巡り巡って私たちの体内に戻ってくるという。

2022年には、実際に人間の血液からそれが検出されたという学術界からの発表もあった。

ドルフィンスイム御蔵島にて。一番左、野生イルカと視線を交えているのが筆者。

20年近く前になるが、野生のイルカと泳ぐドルフィンスイムに夢中なころ、何度か御蔵島を訪れた。

その時、無邪気すぎるイルカの悲しく痛ましい様子に遭遇したことがある。

御蔵島は伊豆七島の一つで、三宅島のすぐ隣に位置している小さな島だ。

島の大部分が国立公園に指定されているためキャンプなどは禁止されており、フェリー乗船券は宿泊施設の予約がある場合のみ購入できる。

そのフェリーだが、御蔵島が世界で最も強い海流の一つと言われる黒潮に囲まれているため、桟橋に接岸できないことが少なくない。

私も一度その洗礼を受けて、方向転換して遠ざかっていくフェリーを旅行バックと共に寂しく見送ったことがある。

近いが遠い孤島が御蔵島なのだ。

自然が色濃く残された島を走る車に「品川ナンバー」がついていて、なんだか不思議な気分にさせられた。

お椀を伏せたような形で断崖絶壁に囲まれたこの島に砂浜は無く、岸はすぐに深い海へと落ちている。

その地形と黒潮の勢いが栄養豊富な深層水を水面へ上昇させるため魚が多く集まり、それを餌にしているイルカたちが島の周りに定住している。

船で沖まで出て時間をかけてイルカたちを探す必要は無く、島の近くでいつでもすぐに会えた。

好奇心の強い彼らの方から「あそぼ、あそぼ」と近寄ってきてくれることもあった。

ある時水面を泳いでいると、眼下に子どもを連れたイルカの群れが現れた。

その中の2頭のイルカたちの遊ぶ姿を見て——愕然とした。

彼らは海中にだらしなく漂っているスーパーのレジ袋でキャッチボールをするように遊んでいたのだ。

水の中で1頭がレジ袋を口にくわえて放り投げ、もう1頭が背びれに引っ掛けてキャッチしているような感じ。

2頭は前後しながらそれを繰り返していた。

無邪気なだけに、たまらなく痛ましい。

青の世界に侵入した人工的な白い色が不気味さを放っていた。

私には、イルカたちがレジ袋を誤って飲み込み命を落とすことがないよう祈るしかなかった。

黒潮は海の恵みだけでなく文明の罪をも運んでいた。

プラごみ汚染が止まらない「水の惑星・地球」の未来が本当に心配だ。

トンガ クジラの親子美しい水の中で命を輝かせていって欲しい。ザトウクジラの親子(撮影地:トンガ)

難しく考えなくても、選択肢を変えるだけで誰でも簡単にプラスチック使用を減らす「プラレス生活」を始められる。

頑張り過ぎると続かないから、地球への愛情貯金を増やす感覚で、無理なくコツコツ楽しむような感じがイイ。

例えば、

  • プラボトル入りのボディシャンプーなどはやめて石鹸を使う。
  • マイクロプラスチック製のスクラブ剤入り歯磨き粉や洗顔料は選ばない。
  • 香り”長持ち”をうたっている洗剤・柔軟剤などは避ける。
  • 一つずつ個別包装されているような過剰包装商品は買わないようにする。
  • 化繊ではなく、綿、麻、竹、羊毛など自然素材の服にも目を向ける。
  • リサイクル素材で製造された商品を優先して選ぶ。

などなど。

お財布とも相談しないといけないから悩ましい点もあるけれど、それでも毎日使っているどのプラスチック製品が自然素材製品に置き換えられるのか、考えたり試すのが楽しくなってくるのではないだろうか。

まずはお気に入りのドリンクボトルを見つけて、エコおしゃれでエコかっこいい人を目指してみよう!

 

オーストラリア 卵売り場オーストラリアの卵売り場
オーストラリア スーパー 野菜売り場オーストラリア:スーパーの野菜売り場

私の住むオーストラリアでは、プラスチック容器に入った卵を見ることはまずない。

リサイクルペーパーで製造された紙容器に入っている。

多くの野菜や果物たちも、プラスチック袋に閉じ込められず気持ちよさそうだし、パンの袋をとめるカラビナも紙製に移行している。

州によってだが、レジ袋、ストロー、スプーンやフォーク、容器などの使い捨てプラスチック製品の使用禁止令が施行された。

初めは提供側も消費者も不便さに困惑していたが「なぜ?」という疑問を経由し理由を知ることで、国民全体の環境への意識は確実に上がってきた。

小さなことでも実際に行動してみると、環境に心を配った商品に関心が向くようになり、消費者の便利さばかりを追いかけている商品に興味を失う。

地球にやさしいものを優先する人が増えていけば、世の中の価値観が変化する。

「プラ製品は選ばれない。売れない」となれば、開発、生産、流通、販売する企業の意識や戦略も変わり、地球の未来は良い方向へと転換できるはずだ。

 

サバンナの朝

深い眠りの中にアラームの音が強引に入ってきた。マシャトゥで迎える最初の朝だ。

コーヒーとフルーツでえいっと目を覚まし、機材をチェックし、6時ちょうどに乾いた大地へと出発した。

ゲームドライブは朝と午後の1日2回、多くの動物たちが活動的な時間に合わせて行われる。

東の空は赤く焼け、西にはまんまるの月が笑っていた。

どっちも撮りたいからあっちへこっちへカメラを振り回す。

忙しい忙しい、私もにこにこ。

アフリカ 旅行記 サファリ 朝の満月 ボツワナ マシャトゥ

ボツワナの9月は乾季の終わりで、朝晩は乾いた空気がひんやりしている。

まだ地面に草は生えていないし、多くの低木は葉がまばらなので、動物たちの姿が隠されず観察しやすいベストシーズンなのだ。

今は全く想像できないが、雨季になるとPULAの恵みで木々は緑色に大きく膨らみ、大地は小さなワイルドフラワーのカーペットで彩られるのだそう。

機織り師たちが編んだ丸い巣をぶら下げた木がぽつんぽつんと立っている。

その姿は、以前冬のフランスを訪れた時に心引かれた「ヤドリギが宿った木々」の景色を思い出させた。

あの時も木の葉は落ちており、枝の間で鳥の巣のようにこんもりと育ったヤドリギがよく見えた。

フランスのヤドリギフランスのヤドリギが宿った木々

フランスやイギリスではヤドリギは幸運を呼ぶ縁起物とされていて、新年の幸と健康を祈り家族や友人に贈るのだそう。

そういえば12月のマルシェの花屋には、真珠のような実が鈴なりのヤドリギがたくさん売られていた。

年越しの日にヤドリギの下でキスをすると、新しい1年を幸せに過ごせるとか、恋人たちは永遠に結ばれるとか、ロマンチックな言い伝えも数多くあるようだ。

あ、でも、今見ているのは鳥の巣だからね。

あの木の下でキスをしても永遠の愛が実ったりはしない。

 

ボツワナ マシャトゥ イボイノシシ

今日からお世話になるガイドは30年のキャリアを持つ地元ツワナ人の男性リチャード。

マシャトゥを熟知している彼は動物たちの動きを読んで、撮影に魅力的なスポットを的確に選びサファリカーを止めてくれる。

さっそくイボイノシシ一家がぞろぞろ連なって巣穴から出てきた。

続いて、獲物を横取りするズルい奴というレッテルを貼られてしまったブチハイエナの登場だ。

実は彼ら、ライオンにも勝るサバンナのスゴ腕ハンターなのだ。

横取りもしちゃうのだけど、餌の6割はちゃんと自ら捕獲しているそう。

と、ハイエナの汚名挽回のつもりで書いてはみたけれど、スゴ腕のわりには横取り率40%か。

多いな。

やっぱりズルいか。

アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ ブチハイエナ アップ アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ ブチハイエナ 走る ボツワナ マシャトゥ ブチハイエナ 砂浴び

よく見れば丸い耳にツルッとした顔とクリッとした目が可愛いし、背中の柄もなかなかお洒落。走る姿は……だよね、腰引けちゃってるよね。

地面にゴロンと腹を見せて転がる姿はネコみたいで可愛らしいじゃないのと思ったのだが、それはまんざら間違いではなかった。

後で知ったのだが、ハイエナはなんと「ネコ型亜目ハイエナ科」だったのだ。

ネコ型……。

ネコ好きな私の思考は一瞬フリーズした。

 

第10話に続く

次回は

<ボツワナスーパードライ共和国>

  • 仰向けに伸びるネコたち
  • ヒョウの怪力
  • 巨大なるものの地

ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!

出典:Mashatu Game Reserve財団法人世界自然保護基金WWF千葉商科大学 MIRAI TimesBBC NewsroundNational Geographic オープンキャンパス

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