連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第8話
*ついにサファリへ突入!動物たち本来の生きる姿が目の前に現れる。陽が落ちても満月の灯りを受けながら、彼らは命を輝かせていた。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 8
でっかいウンコだ、イエーイ!

ボツワナ入国手続き完了、我々は頑丈そうなサファリカーに乗り換えた。
すぐ近くを流れるリンポポ川が南アフリカとボツワナの境界線になっている。
渡ればそこがもうマシャトゥ動物保護区だ。
川を越え数百メートルほど進んだあたりで、ふと動物園や馬屋のイメージが頭をよぎった。
一瞬だけど、どこからか大型草食動物系の臭いが漂ってきたからだ。
「あー、でっかいウンコ落ちてる!おー、こっちにも。わー、あっちにも!大きい動物が近くに居そうだねー!」
大きな落とし物を見ただけではしゃぎまくる自分に笑う。
けどいいのだ、私は自由な心の子供に戻るのだ。
ここは幼い頃から夢に見たアフリカなのだ!
葉の散った低木の後ろから、仔象が不思議そうにこちらを覗いていた。


ロッジまで行くと時間がもったいないので、寄らずにそのままゲームドライブを開始することになった。
ゲームドライブとは国立公園、保護区内を車で野生動物観察すること。
この「ゲーム Game」とは「野生動物」のことで、狩猟の対象となる「獲物」という意味に由来している。
が、もちろんマシャトゥ動物保護区では狩猟は禁止。
土地は民間所有だけど、全ての動物は国に属しているそう。
ちなみにゲームリザーブというのは、動物たちが暮らす保護区の事だ。
「パタパタパタ」という乾いた音が聞こえてきた。
サファリカーの音に驚いたのか、水溜りにいたインパラの群れが砂埃を上げて走り去って行った。
なんて滑らかで美しいフォルムなんだ。
顔だってかなりの美形。
インパラって目力強めメイクをキメたドラァグクイーンのように見える。のは私だけ?

本物の国鳥は私なのよ

しばらく進むといばらの中から貫禄たっぷりに大股で歩く鳥が出てきた。
ボツワナ国鳥のコリ・バスタード(Kori bustard アフリカオオノガン)というノガンの一種だ。
飛ぶ鳥の中ではアフリカで最も大きく重い鳥で、体高は150cm、体重は15kgにもなるというから、飛んだ姿は迫力満点だろう。
ネット上の日本語サイトでは、ライラックニシブッポウソウが国鳥だという情報が出回っている。
しかし、ボツワナ人ガイドや政府公式ツイッターなどよると「コリ」こそが国鳥だそう。

まぁさ、ライラックニシブッポウソウは14もの色を纏って、まるで花束の様にカラフルで華やかでエレガントで息を飲むほど美しいんだもの。
国鳥と間違われても当然って言えば当然かもしれないよね…。
なんて言ったら、コリさんに失礼だな。

英語名Lilac-breasted Rollerという名の通り、胸元がライラック色をしている。
飛び立てば、翼の中からドキッとするほど鮮やかな青空が現れた。
砂漠には、華やかで美しい色を生み出す要素なんてどこにも見当たらないのに、どうしたらこんな素敵な色になれるんだろう。
本当に不思議だ。
子供の頃、大好きでいつも読んでいた西巻茅子さん作の『わたしのワンピース』という絵本を思い出した。
その白いワンピースを着て花畑にいくと花模様に、雨が降ってくるとしずく模様にワンピースの柄がどんどん変わっていくのだ。
この鳥も、本当は真っ白な鳥で、虹の中をくるくる飛び回ってきたのかもしれない。
満月のチーター

ガイドドライバーが「BBJがいるぞ!」と言って車を止めた。
BBJ? 響きが非常にカッコいい。
そこにいたのはBlack-Backed Jackal セグロジャッカルだった。
白い斑点のある黒マントを背中に羽織っている。
賢そうな面構えで、「お座り」「お手」とか教えたらすぐに覚えてくれそうだ。
気が付けば景色に赤みが差し、影が長く伸びる時間になっていた。
他のサファリカーからチーターがハンティングをしているという情報が入り、急遽私たちもそこに向かった。
視力と俊足を武器に狩りをするチーターは、ネコ科だが夜行性ではない。
通常は薄暗くなると狩りを止めるのだけど、今日は満月。
明るいからまだ頑張っているのだという。
急げ急げ。
全てのネコ科の動物に魂を鷲掴みされがちな私の気持ちがはやる。



間に合った。
そこには数頭のチーター がいた。
滑らかなフォルムと斑点模様が実に美しい。
すでに西の空では夕陽が地平線に触れはじめ、東では満月の光が強くなっていた。
チーターたちは何度か得意のダッシュで野ウサギらしき獲物を捉えようと試みていたが、見えづらいのか執拗に追うことはしなかった。
私たちもそろそろロッジに向かうとしよう。

豊島園のアフリカ館ノスタルジー

夕焼けに引っ張られるように、広大なサバンナに夜が広がってきた。
サファリカーに揺られながら星を眺めていたら、遠い昔に行った豊島園のアフリカ館へ意識が飛んでいってしまった。
幼稚園児の自分が、サファリカーを模した乗り物で薄暗い館内を移動している。
ヤリを持った半裸の人たちが踊っている。
ライオンの家族だ。でも白いレオはいない。
滝の水しぶきが飛んでくる。
あ、カバだ、ゾウだ、アフリカが動いている!
緊張とワクワクの興奮マックス状態で目を見開いていると、大きなヒョウがゆっくりと私の頭上を飛び越えて暗闇に消えていった。
ああ、あの感動的な光景は今でもはっきりと目に焼き付いている。
他のアトラクションはいらないから、豊島園全体をアフリカ館にしてもらいたいと本気で思っていた。
今この瞬間、アフリカでサファリカーに揺られているのはリアルなんだよね?
なんだか時空が絡まっているようだけど、ならばそれを心地よく味わってみるとしよう。
ドライバーが静かに車を止めた。
数十頭のゾウの群れが歩いている。
月明かりが、群青色の暗闇を歩くゾウたちのシルエットをうっすらと浮かび上がらせていた。
「サー、サー、サー」と、ゆっくり丁寧に足を運ぶゾウたちの歩む音が聞こえてくる。
どこまでも穏やかで優しい。
その音と大地の匂いと無数の星屑に包まれていたら、自分が地球と一体になったような感覚を覚えた。
「パオーン」と一つ、シルエットの中からトランペットが響いてきた。
【第9話に続く】
次回は
- 世界最大の民間動物保護区・マシャトゥ
- 地球の未来が心配だから。
- サバンナの朝
ワクワクの旅フォトエッセイ、お楽しみに!
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