連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第10話
*アフリカの猛獣ライオン一家や樹上のヒョウに遭遇!サバンナのビッグキャットたちの日常を覗かせてもらい、もうアドレナリンが止まらない!
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 10 <ボツワナスーパードライ共和国>
仰向けに伸びるネコたち
サバンナの朝は早い。
動物たちの活発な時間に合わせて、サファリカーはゆっくりと乾いた地面を進んでいく。
キリンのシルエットが、優雅な足運びで大地と空の境目を歩いていた。
なぜキリンを包む空間は常にゆっくりと時間が流れているのだろう。
こちらの感覚も同調してゆるりとしてくる。
思えば、彼らの姿をこんな遠目に見るのは初めてだ。
私の知っているキリンはいつも囲いの中で目の前に立っていたからね。
野生動物に接近できるというのはサファリならではだけど、遥か遠くの姿を眺めるという体験もまた醍醐味の一つなのだと知った。
気がつけば、太陽は地平線を歩くキリンたちの背よりもずいぶん高い位置まで昇っていた。
無線でライオンがいるという情報が入ってきたので、我々は急ぎ移動を始めた。
スピードが上がるとオフロードを走るサファリカーの振動は激しくなり、大地も木々も空も全部一緒に攪拌されて輪郭を無くし、時々その中を宝石のようにきらめく色彩が翼を広げ飛び去っていく。
リチャードが車の速度を落とした。
「あ、ライオンだ!」(ホントにホントにホントにホントにライオンだー♪)
初ライオンに感激し、懐かしいCMソングが頭の中で流れ出した。
総勢9頭のライオン一家だった。
とーちゃんだけは、父たるものの威厳なのか、一家全員を見渡せる絶好ポジションだからなのか、はたまた、わちゃわちゃを避けて静かに過ごしたいだけなのか、少し離れた場所に単独で寝そべっている。
やだもう、近すぎちゃってどうしようかわいくってどうしよう〜!
これは歌詞を真似たのではなく、私の心から溢れ出た本心だ。
今すぐジャングル大帝レオに変身して彼らの中に飛び込みたいくらいなのだ!
こんな近くまで寄って野生猛獣のリアルを観察できるなんて、サファリってスゴすぎる!
シャッターチャンスを期待してカメラを構えた。
が、しかしだ。
食事の後らしくお腹をパンパンに膨らませ、一家全員地面に伸びまくり状態で爆睡しており全く動かない。
家族で過ごす平和な食休み的光景を写真におさめて満足すると、今度は彼らの動く姿も拝みたいという欲が出てきたが、だあれも起きない。
その気配も無い。
いやいや、辛抱だ。
しばらくすると、とーちゃんが体勢チェンジのためか体を起こした。
まあまあ立派なたてがみを持っている。
オスのライオンはたてがみで男前度がわかるのだ。長さでもフサフサ具合でもなく、色だ。
男性ホルモンが強ければ強いほど、たてがみは黒くなるのだという。
このとーちゃんも黒いたてがみの持ち主だからそこそこ強いのだろうが、なんせ満腹だし寝足りないしで百獣の王的なピリッと感はまるでなく、「んだよ、もうちょっと寝かせろや」と不満を訴えるような表情で我々を一瞥し、またゴロンと体を投げ出してしまった。
かーちゃんや子どもらは、輪をかけて無防備な仰向けお腹丸出し状態だ。
飼い猫と何ら変わらない。
チロっと舌まで出ちゃってるのもいる。
ああ、なんて幸せな景色なことよ。
ネコ科で雌雄混合の群れをなすのはライオンだけだそう。
オスに命を守ってもらう代わりに、メスたちは狩りや子育てをするのだとか。
「やっぱり男は黒たてがみに限るわよねー」
「守られてるって安心感がたまらないわー」
「ねえ、もっと黒くならないかしら」
「どうやって?」
「ふふふ」
などとライオンガールズトークが日夜繰り広げられている。
かもしれない。
ヒョウの怪力
ヒョウが縄張りにしている大きな木があるというので行ってみることになった。
彼らは1頭が1本の木を占領しテリトリーにするらしい。
今はご在宅だろうか。
前方に、太い幹が何本も束になっているような不思議な姿をした巨木が現れた。
その入り組んだ幹の間を、同居人らしきリスが「こっちよ、こっち!」と尻尾で手招きするように素早く駆け上ってゆく。
枝葉が重なり木の中がよく見えないが、頭上4〜5mほどの高さの横枝にチラッと斑点模様が確認できた。
ご在宅だ!
写真が撮れそうな位置を探そうと木の裏側へ回り込んでみると、もう1頭、ヒョウとは明らかに違う大きな動物が木の中にいた。
「1木1頭ルールじゃないの? あっ、え? インパラ?」
そう、それはヒョウが捕えた獲物で、他者に奪われないよう樹上へ運び上げたインパラだった。
捕獲したばかりのようで、インパラはほぼ損傷のない状態で腹を支点にして横枝に引っ掛けられている。
ヒョウは獲物を地面で食べるものだと思っていたので、この違和感ある眺めに少なからずショックを覚えた。
野生動物たちは、捕えられる方も捕える方も、そして捕えた後も、一瞬たりとも油断のできない真剣勝負の世界で生きていた。
アフリカのヒョウのオスの体重は平均60kg、インパラもほぼ同じくらいの体重。
インパラを捕獲した地点からここまでくわえて運び、さらに顎と四肢の力だけであの高さまで運び上げたというのか。
ヒョウがそんなにも怪力の持ち主だったとは全く知らなかった。
茂る葉に邪魔されない位置を見つけ、ようやく怪力王の全身を拝むことができた。
太い横枝を抱きかかえる体勢で四肢と長い尾をぶらぶら脱力させ、狩りを成功させた安堵感を漂わせ、それはそれは気持ちよさそうに休んでいる。
しなやかな体躯とそれを飾る斑点模様が実に麗しい。
この模様は英語やフランス語ではバラをモチーフにした勲章「ロゼット」と、また、日本語では「梅花紋」と表現されている。
梅花紋とは古くから家紋に使われている梅の紋様の総称だ。
花芯の周りに5枚の丸い花びらが置かれた図案は、太宰府天満宮の神紋としてもよく知られている。
ヒョウの胴体部分の柄は大きめで、黒い斑点がいくつか集まり一つの花の形を作っている。
その花芯にあたる部分には濃い茶色の差し色が入っており、ますます梅の花のよう。
神紋をまとった神の使い、それがヒョウなのだった。
「ヒョウ柄」というとどこかのおばちゃんファッションのイメージが浮かんでしまいがちだが、いえいえ、生ヒョウ柄は神々しさをも放っている気品溢れる紋様なのでございました。
巨大なるものの地
マシャトゥという地名は、地元で神聖視されている木の名前が由来となっている。
のびのびと大きく両手を広げ、サバンナを見守るように鎮座している常緑の巨木が「マシャトゥツリー」だ。
この地には樹齢400年という長老もおり、その高さは30mにも及ぶという。
この聖なる木は不思議な姿をしていた。
一見、何本もの木が集まって一緒に成長しているかのように見えるのだが、そうではなく、地中で分裂が始まりそのまま地上に伸びていくので実際には1本の木なのだそう。
たくさんの果実を実らせ、大きな日陰を作り、灼熱の大地に生きる動物たちに多くの恩恵を与えている。
ふと「お陰様」という言葉が仏教からきていることを思い出した。
木があることで陰が出来、我々は暑さや雨をしのぐ事ができるが、木は我々のために陰を作っているわけではない。
それでも感謝をしよう。その心が「お陰様」だ。
と教えられたことがある。
夏の暑い日に木陰で涼んでいる時など、しみじみとこの言葉が浮かんでくる。
先ほど出会ったヒョウが縄張りにしていたのがこのマシャトゥツリーだ。
太く安定感のある横枝はくつろげるし、常緑樹なので姿を隠しやすいし、日陰も作ってくれて、ヒョウにとってもたいへん「お陰様」な木なのであった。
考えてみればこの世は「お陰様」に溢れている。
見えない生産者のお陰で食事ができるのだし、技術者のお陰で便利な生活ができる。
生きていられるのはどこかの誰かの努力に助けられているからだ。
批判や主張するよりも、「ありがとう」と感謝を伝えることができる人でありたい。
マシャトゥツリーは嗜好性の高い果実を実らせるので、ゾウ、インパラ、バブーンなど動物たちがこぞって集まる人気レストランみたいな木だ。
人間も果実を生で食べたり、乾燥させてお粥のようにして食べることもあるというが、リチャードは「人間には少し苦味が強いよ」と言い、美味しそうな顔はしなかった。
+++
「Land of Giants(巨大なるものの地)」と呼ばれているマシャトゥでは、この巨木を筆頭に他にも七つのジャイアントに出会える。
- アフリカ最大の哺乳類・ゾウ
- アフリカ最大のネコ科哺乳類:ライオン
- アフリカ最長身の哺乳類:キリン
- アフリカ最長寿の木:バオバブ(数千年生きることが確認されている)
- アフリカ最大のアンテロープ(レイヨウ/ウシ科哺乳類):エランド
- アフリカ最大の飛ばない鳥:ダチョウ
- アフリカ最大最重量の飛ぶ鳥:コリ・バスタード(ボツワナの国鳥)
お陰様で、全てのジャイアントに出会い撮影することができました。感謝。
さあ、午後は待望のフォト・ハイドだ。
我々は「覗いてみ隊」を結成し、フォト・ハイドと呼ばれる謎の秘密基地内部へと潜り込んだのであった。
【第11話に続く】
次回は
<ボツワナスーパードライ共和国>
- 秘密基地から覗いてみ隊!
- せつないキリン
- 五臓六腑に染み込む染み込む
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
出典:Mashatu game reserve、Discovery UK
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