連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第11話
*ついに秘密基地「フォト・ハイド」に潜入だ!乾いた熱風が動物たちを水のあるそこに誘う。静々と現れたキリンが我々に見せた驚きの行動とは?
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 11 <ボツワナスーパードライ共和国>
秘密基地から覗いてみ隊!
なぜ我々は遠路はるばるマシャトゥくんだりまでやって来たのか。
それはここに「フォト・ハイド」があるからだ。
ハイドとは半地下の写真撮影小屋のこと。
側面上部に窓のついたコンテナが4分の3ほど地中に埋まっており、その中で息を潜めながら目の前に集まってくる動物たちを覗き見する。
言うなれば「サバンナの秘密基地」なのだ。
外には窓と同じ高さに水場が設けられているので、水を飲みに集まった動物たちの視線がフォトグラファーたちのそれと同じ高さになる、という具合。
動物の写真は、レンズの位置を動物と同じ高さにすると、一体感のあるリアリティに富んだ写真が撮れる。
試しに、ペットの動物たちを立ったまま上から見下ろす位置からと、目線が同じ高さになるようしゃがんだ位置から撮って比べてみてほしい。
ライブ感がまるで違うことがわかると思う。
下の写真は、フォークランド諸島シーライオン島で、ビーチに這いつくばって撮影したもの。
若い衆を引き連れ「お控えなすってペンギンでござる」風ポーズでキメてくれたジェンツーペンギンのライブ感を感じてもらえるのではないだろうか。
もう一枚の写真は、シショーが穴に身を沈めてペンギンを狙っている撮影現場をパパラッチしたもの。
”穴があったら入りたい”のが自然写真家の性なのだ^^
下からのアングル撮影の面白さを学ばせて頂いた。
もちろん表現したいストーリーによってレンズの位置を変える必要はあるが、地面すれすれから見上げるアングルで狙うと迫力マシマシになり、いつもと全く違う表情を捉えることができておもしろい。
ゾウのような大型動物ならさらに臨場感抜群となる。
ここで冒頭の「野生のゾウを、地面に潜って下から見上げて写真が撮れるスゴい場所」という、今回の旅のきっかけとなったシショーの一言が蘇るわけだ。
多くの国立公園や動物保護区は野生動物のそばで車から降りることを禁じているため、地面すれすれから見上げる角度で撮影することはできないし、危ない危ない。
そこで出番となるのがフォト・ハイドなのだ。
マシャトゥの水辺を設けたハイドは2011年に始まり、動物にもフォトグラファーにも人気が出てきたため需要に合わせ改良が重ねられ、2018年に現在のスタイルに落ち着いたという。
我々「覗いてみ隊」は、機材を担ぎ勇み足でその秘密基地の中へと潜り込んだ。
今回の滞在中、フォト・ハイドからの撮影チャンスは3度ある。
はたして動物たちは水辺に集まってくれるのだろうか。
もし本当にゾウたちが水を飲みに来てくれたら——
と考えるだけで鼻息が荒くなってしまうで。
せつないキリン
ハイドの周りに大型動物の姿はまだ見えない。
我々は静かにその秘密基地の中で撮影の準備を始めた。
ときどき、一斉に飛び立つ鳥たちの羽ばたきが聞こえてくる。
20分ほど経ったころであろうか、珍しく群れていない1頭のインパラが姿を現した。
続いてバブーンたちも水を飲みにやってきた。
やんちゃな子猿たちの追いかけっこや、母の胸にしがみ付いてきょろきょろしている赤ちゃんの様子が微笑ましい。
気がつけばバブーンの遠く背後から3頭のキリンが静々とやってくるではないか!
秘密基地に常駐しているスタッフから
「キリンはとても繊細だから、ほんの小さな音や気配でも警戒して水を飲まずに去ってしまう。カメラは消音にすること。消音にできない場合はキリンが水に口をつけてから撮影を始めるように」
とアドバイスを受けた。
私のカメラは一眼レフなので、どうしてもシャッター音が出てしまう。
しばらく観察に集中しよう。
野生のキリンは草や葉からも水分を摂るので、補水は数日おきでも生きていくことができるという。
進化の過程でそのような性質になったのも、キリンの水を飲むという行為が命懸けだからという点も理由の一つではないだろうか。
彼らが足元の水に口をつけるには、前足を大きく大きく左右に開き膝を曲げ、つんのめりそうな体勢で長い首を下げないと届かない。
下の写真は、別の場所でキリンが水を飲む姿を撮影したもの。
その時の姿勢がいかに無防備なことか。
もし襲われそうになっても、長い首を起こし、開いた両足を閉じて逃げる体勢に戻すという動作は彼らにとって容易なことではない。
命懸けの補水。
それでも今日の激しい暑さはキリンたちを水辺に誘ったようだ。
目の前に1頭の大きなキリンがそびえ立った。
その高さに圧倒される。そのキリンがゆっくりと前足を左右に開き始めた。
頭も下がってくる。
しかし何か異変を感じたのか、体勢を戻してしまった。
周囲の変化をうかがいながら、またゆっくりと足を開き始めた。
私も緊張しながら固唾を呑んで見守る。
(大丈夫だよ、私たちは敵じゃないよ)と心で伝えるも虚しく、また体勢を戻してしまった。
一息ついて、再びキリンは水飲みに挑戦する。
前よりも頭が下がってきた。
今度は水に届くかなと思いきや、何かが気に入らず体勢を戻し、結局飲まずに去っていってしまったのだ。
すぐ目の前に水があるというのに。
渇きを満たしたいから、ここまでやってきたというのに。
せつない……。
だが、欲求を抑えてでも命を守るために「己の直感を信じてそれに従う」のが、野生の世界での生き方だった。
人の目、プライド、意地などに振り回されて、判断を見誤りがちなニンゲンは、彼らから学ぶことがまだまだたくさんあるようだ。
後になって、消音にできるコンデジや携帯電話(オーストラリアのは可能)を持っていたので、それでなら撮ることができたなぁと気づいたけれど、キリンが発する緊張感に飲み込まれ静かに息をするのが精一杯だった。
でもあの時の張りつめた空気と、命懸けで水を飲もうとするキリンの姿は心の中にはっきりと刻まれている。
+++
キリンが去った後は、ホロホロ鳥、イボイノシシ、ヌー、クードゥ、そして数十頭のインパラの群れなどが集まり、秘密基地前は大賑わい。
共存共栄の世界が目の前に広がった。
たっぷりと水を飲み生気がみなぎった動物たちは、元気を飛び散らせながら走り去っていった。
プラ〜!ハイド万歳!
五臓六腑に染み込む染み込む
今日も朝から晩までずっと興奮しっぱなし車に揺られっぱなしの1日だった。
まずはシャワーを浴びてリフレッシュだ。
あまりにも気持ちが良くて一緒に浴びようと思っていた月の存在をすっかり忘れていた。
お腹もペコペコだ。
別棟の茅葺き屋根のアフリカ風あずま屋が共有スペースになっており、ダイニングやバーもそこにある。
「かんぱーい、プラー!」
これを五臓六腑に染み渡ると言わずしてなんと言えよう。
乾いた体にビールがシュワーッと吸い込まれていく。
全身の細胞が騒ぎ出す。
極楽ごくらく。
今夜のディナーは昨晩と違う場所らしく、あずま屋の外に案内された。
そこは円形劇場のような空間で、真ん中にはおしゃれな皿型の焚き火台に火が焚かれ、テーブルはその火を囲んで半円状にセットされていた。
どの席からも火の向こう側の景色が見られるようになっている。
奥の敷地には水場が設けられており照明で明るくなっていた。
食事をしながら水場にやってくる動物たちの姿を楽しもうという演出だ。
メインディッシュに合わせたかのように、ちゃんとシマウマが2頭やってきた。
なんて素敵なアフリカンナイト。
今日体験した全ての瞬間がドラマティックだったせいか時間の層が重なり過ぎて、ライオン一家に会えたのが今朝だったなんてとても思えない。
明日はここから車で30分ほど離れたロッジに移動する。
そしてまた、脳内快楽物質噴出が止まらない出来事が繰り広げられたのだった。
【第12話に続く】
次回は、
<ボツワナスーパードライ共和国>
- 聖なる木の下で
- ゾウの足裏
- お邪魔させてもらっています
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
Source:Photo Mashatu hide
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