連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第18話
*世界遺産オカバンゴ・デルタの大地へ Let’s オカバン Go!カバとゾウはデルタの環境を育てる重要な立役者。驚くべきことに、彼らは忍法も使いこなせてしまうのだ!癒しの「焚き火&カエルの歌」動画も掲載。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode18 <世界遺産へ Let’s オカバン Go!>
五感を騒がせる魔法のオアシス
オカバンゴでの初めての朝を迎えた。
スタッフが用意してくれたお湯で顔を洗い目を覚まし朝食を取り、はやる気持ちで魔法のオアシスへと出発した。
マシャトゥと違い湿度のあるオカバンゴでは、鼻腔の奥に干草のような匂いが届き、空気はほんのり甘い味がする。
オフロードに入っていくと、サファリカーに揺らされたワイルドセージが爽やかな香りを放ち深呼吸を誘ってきた。
なんて良い香りなんだろう。
地元の人たちは風邪をひいた時などにこの抗菌浄化作用の高いセージを蒸して蒸気を浴びたり香りを嗅いで薬として使うのだそう。
聞いたことのないさまざまな野鳥のさえずりが頭上を飛び交う。
バブーンが樹上から警戒の声を発して周囲に知らせている。
近くに肉食動物がいるのかもしれない。
林を抜けると前方にピンク色の花を付けた木立が広がっていた。
カラハリアップルリーフという木で、ここカラハリ砂漠の固有種だそう。
満開にはまだ早くて薄ぼんやりしているが、大地と空の境の差し色となり景色を優しく和ませていた。
花盛りを迎えたころには草原に浮かぶピンク色の雲となって一体を華やかに彩るのだろう。
五感で記憶したものは後にその要素に触れた時、一瞬にして記憶を呼び起こし、その時やその場所へ連れて行ってくれる。
今後どこかでワイルドセージの香りを嗅いだ時、私はオカバンゴへ瞬間移動するようになるのだろう。
旅の間に体感したことというのは、自分が生きている間ずっと並走しているのだ。
ときどき現れては刺激を与えてくれる。
さあ、五感を騒がせるアフリカの魔法のオアシスへ Let’s オカバン Go!
忍法◯◯の術
カバとゾウは、オカバンゴ・デルタの環境を育てる重要な立役者。
体の大きな彼らが新鮮な草を求めながら水辺に生い茂った葦をかき分けていくと、そこに水路ができる。
無数の水路がモザイクのような景観を作りながら広がり、デルタの水を循環させる。
立役者たちの糞は養分となり、隅々まで行き渡ってデルタ全体を肥沃な土壌にしている。
そして彼らは驚くべきことに忍法も使いこなせてしまうのだ。
3頭のカバが水の中で横1列に並び頭だけ出してこちらを見ていたが、音もなく1頭また1頭と姿を消してしまった。
生き物の気配は皆無となり、何分も経つというのに水面はすました顔のまま鎮まっている。
カバ忍者秘伝「忍法・水遁の術」だ。
1人前のカバ忍者なら息をせずに5分間くらいは水中に潜っていられるという。
日頃の鍛錬の賜物ってヤツだ。
(自慢の忍法を静かに披露してくれたカバたちだったが、翌日我々は彼らのそれはもうスサマジイ行動と遭遇することになる。)
そこに負けじとゾウも参戦。
ボクだってできるんだゾウと「忍法・煙遁の術」をお披露目だ。
大量の砂を蓄えた鼻を振り上げブワーッと一気に吹き出した。
「ボク、きえてる? ちゃんときえたよね」
いえいえ、確かに頭は煙に隠されたけど下半身は見えてるよ。
まだまだ修行が足りないな。
実はこのゾウ、鼻に怪我をしており、その傷口にも砂をかけて細菌繁殖が広がるのを防いでいるのだそう。
砂浴びは、寄生虫を防ぐ、紫外線や乾燥から皮膚を守る、火照った体を冷やすなど、ゾウが健康に生きていく上で非常に大切な行為なのだ。
姿を消せなくても問題はない。
マーガリンのクイズ
10頭ほどのシマウマファミリーが草をはんでいる奥から一台の車が現れた。
ときどき他のサファリカーと出くわすのだが、トヨタのランドクルーザーとハイラックス以外の車を見ることは1度も無かった。
日本の技術が信頼と実績でサファリでも役に立っていると知り誇らしくなるけれど、逆に日本国内の舗装道路しか知らない四輪駆動車は本来の力が発揮できなくて気の毒になってしまう。
そんなことはどうでもいいよという感じで、シマウマたちは夢中で草をはみ続けていた。
彼らの姿を見ていたら、小学校の給食に出たマーガリンの包みに「シマウマの毛を剃ると、肌にシマはあるか、ないか?」というクイズが書いてあったことを思い出した。
質問を覚えていても答えが曖昧なのが私らしい。
どっちだっけ?
シマウマは白地に黒ラインなのか、その逆なのかも気になるところなので調べてみた。
正解は、地肌にシマは無く単色。
そして、黒地ベースに白ライン。
シマウマの被毛の色は黒がデフォルトで、白い毛の部分はメラニンが無いために色素が生成されず白くなっている、と理解されているのだそう。
シマウマというのは黒馬忍者が「忍法・へんげの術」で白いシマをあしらい変装している姿なのであった。
アフリカの南十字星
ディナーの後、おのおのアルコールを片手に焚き火を囲んだ。
リンリンリンコロコロコロと転がる鈴のようなカエルの歌に包まれながら、揺らめく炎をじっと見つめる。
なぜこうも心が解放され透明になっていくのだろう。
赤く燃える木がパチッとはぜた。
舞い上がった金色の火の粉は、群青の宙に輝く星屑たちの一部になり、そして静かに消えてゆく。
遠くから野太い遠吠えが響いてきた。
この旅の出発前に友人宅で「あなたの生まれてきた使命は何か?」という問いに対する天からのメッセージが受け取れるオラクルカードを引く機会があった。
告げられたのは「最後」という言葉だった。
ドキッとするほど物寂しい言葉で不安になったが、解説には「あなたが地球に転生するのは今回が最後です。後悔が無いように地球でやりたいことを全てやりきり、楽しむのが使命です」と書かれていた。
なんだか妙に腑に落ちてしまった。
学生時代から間を置かず旅に出かけていた。
今は亡き祖母に旅先で撮った写真を見せると「一緒に旅行した気分になれる」と楽しみにしてくれるようになり、「ならば、おばあちゃんに地球のいろんな景色を写真に撮って見せてあげなきゃ!」という都合の良い大義名分ができたのをいいことに、海外の国々を訪れるようになった。
同じ場所に通った方がその土地について深く知ることができる。
でも私は地球が見せるさまざまな表情をどんどん追いたかった。
仕事も趣味もあれこれ多分野にわたり携わってきた。
一つのことを全うした方が知識と理解が深まり、より鍛錬されていくことを頭ではわかっているが、興味が次々と広がり止まらないのだ。
潜在意識は「最後」だと知っていたから、地球でのやり残しが無いよう、私をそんな風に動かしてきたのかもしれない。
また、私の守護天使は「伝えの天使」だそうで、好きなことをワクワク楽しむことで人を幸せにできることを伝えるのが役目なのだとか。
自分の守護天使からのメッセージを降ろしてもらえるセッションを受けた時
「人生での厳しい試練はもう十分こなしてきたので、これからはいつもワクワクしていればいい。そうすれば周りの人にも光が降りてきます」
と告げられた。
ワクワクしながら撮って書いてそれを伝える。
いろいろやってきたけれど、気がつけば自然とお役目の方向に導かれているようだ。
焚き火の魔法にかかったのか、そんなスピリチュアルな話をシショーとしていた。
「じゃあ地球で生きるのは今回が最後なんだ」
「はい、そうらしいです。名残惜しくて地球が前よりも愛おしくなってきました」
「次はどの星に転生するんだろうね。南十字星かな。」
「さっき見えましたね。南十字星だと思いますか?」
「うん、サザンクロス。散々苦労する」
「…………」
アフリカの夜はこうして更けていく。
【第19話に続く】
<世界遺産へ Let’s オカバン Go!>
- 砂上のオカバンゴ・デルタ
- なんということでしょう!
- プロペラ付き糞霧器の恐怖
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
出典・参考:National geographic、BBC FUTURE、Britannica、『ワンネス使命発見オラクルカード』 Yurie著、『あなただけの天使に出会えるAngel Book』Yasuko著
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