連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第16話
*記念すべき世界遺産1000件目に登録されたオカバンゴ・デルタに到着した。なぜここは奇跡のオアシスと呼ばれているのか?天の計らいとしか思えないその驚きの理由とは?
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 16
違いを生み出すのは、あなたです。
平坦な乾いた大地を突き進む1000kmドライブを走破し、無事マウン (Maun) に到着した。
ここはボツワナで3番目に大きい町で国際空港もあり、世界中から世界遺産オカバンゴ・デルタを訪れる人たちが集まってくる。
マウンという地名の由来は、世界最古の狩猟採集民族・サン族の言葉 ”Maung”「背の低い葦が茂る場所」からきているそう。
葦は水辺の植物だから、単語一つでここが貴重な水に近い場所だと伝達できていてエラい。


泊まったマウンロッジはアフリカ感たっぷりの佇まいだ。
朝、敷地内を歩いてみると、目に留まったのは鎮座する大きな水貯蔵タンク。
このような設置場所がいくつもあった。
第7話でも触れたように、水はボツワナで兎にも角にも一番貴重な資源だ。
水を多く使うホテルの苦労がタンクの数に比例しているように見える。
そして、部屋にはこんな内容の掲示が貼られていた。

「毎日何百万リットルもの水が、一度しか使われなかったタオルを洗うために使用されています。
違いを生み出すのは、あなたです。
タオルを掛けておけば『もう一度使うよ』という意思表示になります。床に置いてあるタオルだけを洗濯しますね。地球の貴重な資源のために、ご協力をお願いします。」
と、宿泊客に節水の協力を仰いでいた。
サービスやホスピタリティーを提供するホテルにとっては勇気が必要なアクションかもしれない。
しかし、世界中でこのような提案をする宿泊施設が増え、それを受け入れる宿泊客が増えたら、地球の抱える困難が少し軽くなるのではないだろうか。
なぜ奇跡?魔法のオアシス、オカバンゴ・デルタ

今日からテントキャンプをするオカバンゴ・デルタのモレミ野生動物保護区・クワイへと出発した。
上の地図で、指を広げた手のひらのような形をした水域がオカバンゴ・デルタだ。
世界遺産1000か所目に登録された記念すべき場所で、アフリカの大地と一体になりながら過ごせるなんて考えるだけでもワクワクが止まらなくなってくる。
道端には、セルフドライブの個人旅行でオカバンゴにキャンプ滞在する人たち向けに、煮炊きや暖を取る時に必要な薪が売られている。
一束10Pula、およそ100円。
世界遺産の中では、薪の一本でも勝手に取ってはならないのだ。
町を抜けてしばらく行くと、道路の舗装がパシッと終わった。
まるで手前は人間の俗なる世界で、向こう側は動物たちの聖なる世界だと示す結界のようにだ。
ここからは、視界や撮影の邪魔にならないよう、サファリカーのフロントガラスを倒して走ることができる。
遮るものが無くなり、風が「どっどど どどうど」と『風の又三郎』のように入ってくる。

すると聖なる世界の方から、機関車の蒸気と見間違う程の大量の白い砂煙を巻き上げ車が向かってきた。
当然我々も蒸気機関車状態になっているのだろう。
両ドライバーは車を側道側に寄せて走らせ、なんとなく速度を落とし被害を抑えようとしてくれてはいるが、窓の無い車なのであまり意味は無い。
そして悲しいことに又三郎はこっち向きだ。
取り急ぎ全頭部ほっかむりで自己防衛してみる。
そう、ここは砂煙幕が舞い上がる程カラッカラに乾いたカラハリ砂漠。
今、その砂漠を潤すオアシスに向かっているのだが、この状況ではまだあまりピンと来ない。
+++
「カラハリの宝石」と呼ばれる奇跡のオカバンゴ・デルタ。
いったい何が奇跡なのか?
それは、巨大オアシスが「乾季」になると魔法のように現れるからなのだ。
1000km以上も離れた隣国アンゴラの高原地帯。
雨季にここで降った膨大な量の雨がオカヴァンゴ川をつたい数ヶ月かけて南下し、カラハリ砂漠のオカバンゴに到達する。
雨水は流れ込み続け、氾濫が繰り返され、湿地帯はどんどん広がり、6月〜7月にピークを迎える。
これだけでも凄いが、氾濫ピークの時期というのは、正にボツワナの乾季のピークでもあるのだ。
一年で最も水や食糧が乏しい時期に、魔法のように水の恵みが溢れ出す。
これを奇跡と言わずして何と言えよう。
「PULA〜!祝福あれ〜!バンザーイ!」と叫ばずにはいられなくなってくる。
乾き切った砂漠に散っていた生き物たちが、このオアシスを目指してどんどん集まる。
全ての生命が水と共にキラキラと輝き出す。
ここは正にカラハリの宝石なのだ!
今回テントキャンプをするモレミ野生動物保護区 (Moremi Game Reserve) は、オカバンゴ・デルタの40%、東側ほぼ全域を占めている。
保護区の入口、サウスゲートに掲示されている解説パネルによると、オカバンゴには常に水の残る地域が4,000㎢程あるが、氾濫ピーク時の湿原は約3倍の12,000㎢以上、長野県ほぼ全域に届く程の面積に成長するという。
白い砂の大地、モザイクの様に広がる大湿原、葦に囲まれた水路、睡蓮が咲き溢れるラグーン。
こんな景観の中で、弾ける命のドラマが日々繰り広げられているのだ。
水辺のムファサ王
サウス・ゲートを越えるとかなりのオフロードになる。
砂地とぬかるみが混在しており、四輪駆動車が義務付けられている事に納得。
野生動物たちの姿が現れ始めた。
群れたインパラも見えるが、マシャトゥでインパラ慣れしてしまった我々は車を止めることなくどんどん先へ進んだ。
いよいよキャンプサイトに到着かという時、水辺で一頭のオスライオンに遭遇した。

水が苦手と言われるライオンだが、大湿地帯であるオカバンゴに生息するその多くは、氾濫時に水を渡ったり獲物を狙うために泳げるようになったという。
水飛沫を跳ね上げて狩りをするライオンの姿は、アフリカ広しと言えどもここでしか拝めないらしい。
え、いきなりそういう貴重なシーンが目の前で繰り広げられちゃう!?
静かに移動し、ライオンのそばに近寄った。
しかし彼は狩りどころではなく、怪我を負って休んでいたのだ。
日陰があり水が飲める場所であるのが救いだが、ぐったりした様子を見せていた。
傷口は見えないが、ガイドによるとハエがたからぬよう隠しているらしい。
ライオンキングにちなんで、君をムファサ王と呼ぼう。
また来るよ。
早く傷が癒されますように。

【第17話に続く】
- テントキャンプでサステナブルにいこー!
- 大きく育った小さなゾウ
- 夜が生きていた
の3章です。
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
Source: モレミ野生動物保護区サウスゲートの解説ボード、UNESCO Okavango Delta、Bush Lark Safaris、『風の又三郎』宮沢賢治(著)
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