フォトエッセイ

旅フォトエッセイ|8話『PULA!アフリカの魔法のオアシスへ』全25話連載

Pula フォトエッセイ Episode8

連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第8話
ついにサファリへ突入!動物たち本来の生きる姿が目の前に現れる。陽が落ちても満月の灯りを受けながら、彼らは命を輝かせていた。

子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。

日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。

南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。

未発表写真もたっぷり掲載!

第1話はこちら

PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。

 

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Episode 8 <ボツワナスーパードライ共和国>

でっかいウンコだイエーイ!な初サファリ

アフリカ 旅行記 リンポポ川 Limpopo River乾季のリンポポ川

ボツワナ入国手続きが完了し、我々はオレに任せろ的頼もしさが眩しい堅牢なサファリカーに乗り換えた。

すぐ近くの東西に横たわるリンポポ川が南アフリカとボツワナの境界線になっている。

渡ればそこがもう今日から滞在するマシャトゥ・ゲームリザーブだ。

川を越え数百メートルほど進んだあたりで、ふと動物園や馬屋のイメージが頭をよぎった。

一瞬だが、どこからか草食動物系の臭いが漂ってきたからだ。

「あー、でっかいウンコ落ちてる! おー、こっちにも。わー、あっちにも!大きい動物が近くにいそうだねー」

大きな落とし物を見ただけではしゃぎまくる自分に笑う。

けどいいのだ、今日から私は自由で素直な子どもの心に戻るのだ。

ここは幼いころから夢に見た本物のアフリカの大地なのだ。

葉の散った低木の後ろから、半分体を隠した子ゾウが不思議そうにこちらを覗いていた。

アフリカ 旅行記 ボツワナ アフリカゾウ 落とし物確認中落とし物確認中なんだゾウ〜
アフリカ 旅行記 砂煙とトヨタ製のサファリカー

今からロッジまで行くと時間がもったいないということで、寄らずにそのままゲームドライブを開始することになった。

「ゲームドライブ」とは国立公園や動物保護区などを車で移動しながら野生動物を観察すること。

「ゲーム」というのは野生動物を指しているが、もともとは「狩猟の対象となる獲物」という意味で使われていたことに由来している。

が、もちろんマシャトゥでは狩猟は禁止。

ここの土地は民間所有だが、全ての動物は国に帰属しているのだそう。

ちなみに「ゲームリザーブ」というのは、動物たちが暮らす保護区のことだ。

前方からパタパタパタという乾いた音が聞こえてきた。

サファリカーに驚いたのか、枯れそうな水溜りで水を飲んでいたインパラたちが軽やかに走り去って行った。

立ち止まってこちらの様子を見ているのもいる。

なんて滑らかで美しいフォルムなんだろう。

顔だってかなりの美形だ。

インパラの顔って、正面から見ると目ヂカラ最強メイクをキメたドラァグクイーンのように見える。

のは私だけ?

アフリカ 旅行記 ドラァグクイーンなインパラドラァグクイーンなインパラ

 

本物の国鳥は私なのよ

アフリカ 旅行記 正しいボツワナの国鳥 コリ バスタード アフリカオオノガン正しいボツワナの国鳥 コリ・バスタード(アフリカオオノガン)

その鳥はコリ・バスタードというノガンの1種で、飛ぶことのできる鳥類ではアフリカ大陸最大・最重量を誇るという。

体高は1mを優に超え、体重は15kgにもなるというから飛んだ姿は迫力満点だろう。

筋骨をたくましくさせたサギのような体型で、首と足が太く長い。

亜麻色と薄茶色で全体的に地味だけれど、翼の端が白黒の市松模様で飾られ品よくまとまり、頭に冠羽を乗せたなかなかの洒落者だ。

実はこの鳥、敬意を払うべきボツワナ共和国の国鳥でもあるのだ。

それなのにインターネット上では、なぜか多くの日本語サイトだけが「ボツワナの国鳥はライラックニシブッポウソウ」と紹介している。

誰かが間違えた情報を書き、その情報を鵜呑みにした人が事実確認をせずにまた記事にして投稿する、が繰り返されているようだ。

これこそネット情報の落とし穴。

ボツワナ人ガイドによる説明やボツワナ政府公式サイトでも「コリ」が国鳥だとしているので間違いない。

ライラックニシブッポウソウ Lilac-breasted Roller アフリカ 旅行記ライラックニシブッポウソウ Lilac-breasted Roller

まぁさ、ライラックニシブッポウソウは全身に虹をまとい、木にとまる姿はカラフルなブーケのようで梢に華を咲かせてくれるし、飛び立てば翼の中からドキッとするほど鮮やかな青い空と海が現れて乾いた大地を潤してくれるし、息を呑むほど美しい鳥なんだもの。

国鳥と間違われても仕方ないと言えば仕方ないわね。

なんて言ったら、コリさんに失礼だな。

ライラックニシブッポウソウ Lilac-breasted Roller アフリカ 旅行記世界で一番美しい鳥の一つと言われている。

アフリカ 旅行記 ライラックニシブッポウソウ Lilac-breasted Rollerこの鳥はライラックという名のとおり胸元がライラック色をしているサバンナの宝石だ。

緑、黄、橙、茶、水、青、藍、白、黒、そしてライラック色が目視でき、それらがグラデーションとなって色彩の幅を広げている。

荒野にはこんな華やかな色を生み出す要素なんてどこにも見当たらないのに、自然という世界は本当に不思議だ。

幼いころ、大好きでいつも読んでいた西巻茅子さん作の『わたしのワンピース』(こぐま社)という絵本のストーリーを思い出した。

空から舞い降りてきた真っ白い布を拾ったうさぎが、カタカタと上手にミシンをかけてワンピースをこしらえた。

うさぎがそれを着て花畑を歩くと白いワンピースが花模様になった。

麦畑に入ると麦の穂模様になり、小鳥たちがついばみに来た。

雨が降り始めると今度はしずく模様にと、ワンピースの柄が背景に合わせてどんどん変わっていくというすてきなお話だ。

自分の服にもそんなことが起きないかしらと、願いを込めて着ているワンピースを撫でたことを思い出す。

ライラックニシブッポウソウも本当は真っ白な鳥で、虹の中をくるくる飛び回っているうちに美しい色に染まったのかもしれない。

きっとそうだ。

わたしのワンピース にしまきかやこにしまきかやこさん作『わたしのワンピース』

 

満月のチーター

アフリカ 旅行記 BBJ Black-Backed Jackal セグロジャッカルセグロジャッカル Black-Backed Jackal

ガイドが「BBJがいるぞ」と言って車を止めた。

BBJ? 響きがたまらなくカッコいい。

そこにいたのはBlack-Backed Jackal、セグロジャッカルだった。

キツネを連想させる姿をしており、茶色のボディに白い水玉模様付き黒マントを背中に羽織っている。

キリッと凛々しく「お座り」「お手」を教えたらすぐに覚えてくれそうな知的な面構えだ。

BBJの写真を撮っていると、他のサファリカーからチーターがハンティングをしているという情報が入り、我々も急遽そこに向かうことになった。

気がつけば景色に赤みが差し、影が長く伸びる時間を迎えていた。

視力と俊足が武器のチーターが狩りをするのは明るいうちだけだ。

普段は薄暗くなると狩りを止めるのだが、今日は満月。

明るさが残っているからかまだ頑張っているのだという。

急げ急げ。

全てのネコ科動物に魂を鷲掴みされる私の気持ちがウズウズしてくる。

チーターとサバンナの夕日 アフリカ 旅行記 チーター アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ 2頭のチーター

到着したそこには兄弟と思われる3頭のオスのチーターがいた。

しなやかですらりとしたボディライン、小さな頭部、長い四肢と尾、そこに斑点模様が施され、彼らは間違いなく動物界きってのスーパーモデルだ。

実に美しい。

願わくば、全身を伸縮させ時速100kmを超えるスピードで走る姿を拝んでみたいものだが、太陽は思いのほか早く沈もうとしており、狩をするには明るさが足りなくなってきたようだ。

チーターたちは何度か得意のダッシュで野ウサギらしき小動物を捕えようと試みていたが、執拗に追うことはしなかった。

獲物にあぶれた彼らが静かに木の根元に戻ってきた。

深紫色になった空に輝く満月が存在感のある光を放ち、チーターたちの斑点模様を妖美に浮き上がらせている。

我々もそろそろロッジに向かうとしよう。

アフリカ 旅行記 ボツワナ マシャトゥ 満月の夜のチーター

 

豊島園のアフリカ館ノスタルジー

アフリカ 旅行記 アフリカ ボツワナ 消えゆく夕焼けと天の川撮影地:ボツワナ オカバンゴデルタ

夕焼けに引っ張られ、広大なサバンナに夜が降りてきた。

サファリカーに揺られながら暗くなった荒野をぼんやり眺めていたら、遠い昔に行った「豊島園のアフリカ館」へ意識が飛んでいってしまった。

それは1969年に東京の遊園地「豊島園」に登場し、30年近くもの間、子どもから大人までを魅了し続けた伝説のアトラクションのことだ。

正式には「アドベンチャーゾーン アフリカ」という名称だったらしいが、誰もが「アフリカ館」と呼んでいた。

アフリカ大陸を再現した暗い屋内を、サファリカー風にペイントされた乗り物で探検するダークライド系のアトラクションで、乗った瞬間から異次元に迷い込んでしまう。

今、ボツワナの暗いサバンナで感じているこの揺れと至福感が、あの時の異次元世界へと私をワープさせた。

——ゴトゴトと乗り物が動き出し、薄暗いアフリカ館内部へと運ばれていく。

始まりはエジプトの遺跡、今思えばアブシンベル神殿だ。

その先には槍を持って跳ねている大勢のマサイ族の人たちがいて、両側から囲まれてしまった。

しぶきを飛ばす滝を通過する。

吊り橋の揺れ、落ちてゆく水。

水面には顔をのぞかせたカバやワニもいる。

緊張とワクワクの興奮マックス状態で目を見開いていると、突然大きなヒョウが現れてゆっくりと私の頭上を飛び越えて暗闇に消えていった。

ライオン一家が食事をしている。

あ、大きなゾウがこっちに向かってきた。

アフリカが動いている! 

豊島園全体がアフリカ館だったら最高なのに……

あれ、この揺れはリアルなんだよね? 

私、今、本物のアフリカにいるんだよね? 

なんだか時空が絡まっているようだけど、ならばそれを心地よく味わってみるとしよう。

あの強烈な印象を残した光景を思い出しながら。

 

ドライバーが静かに車を止めた。

数十頭のゾウの群れが歩いている。

月光が群青色の夜を進むゾウたちのシルエットをうっすらと浮かび上がらせていた。

サー、サー、サー、とゆっくり丁寧に足を運ぶゾウたちの歩む音が聞こえてくる。

どこまでも穏やかで優しい。

その音と大地の匂いと無数の星屑に包まれていたら、自分が地球と一体になったような感覚を覚えた。

「パオーン」と一つ、シルエットの中からトランペットが響いてきた。

 

第9話に続く

次回は

<ボツワナスーパードライ共和国>

  • 世界最大の民間動物保護区・マシャトゥ
  • 地球の未来が心配だから。
  • サバンナの朝


ワクワクの旅フォトエッセイ、お楽しみに!


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