連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第17話
*世界遺産オカバンゴ・デルタに滞在するなら、アフリカの大地と一体になれるテントキャンプステイは外せない!その至れり尽くせりのおもてなしとは?水辺の夕景リフレや焚き火料理も大いに盛り立ててくれた。
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode 17 <世界遺産へ Let’s オカバン Go!>
テントキャンプでサステナブルにいこー!
ついにキャンプ場に到着した。
渇いた喉にウェルカムドリンクが染み込んで、やっと落ち着いた気分になる。
見渡せば我々が滞在するテントの他に、共有スペースやキッチン用のテントなどが設営されていた。
今回お世話になるオペレーターのブッシュ・ラーク・サファリズ(Bush Lark Safaris)は白人資本が一切入っておらず、ボツワナ人だけで運営されている数少ない会社の一つだ。
それが理由かはわからないが、スタッフ一人ひとりが自信に満ちた様子ではりきって仕事をしており、見ていて清々しい。
経営者のディショー氏は自宅にトレーニング施設を作り、半年〜1年かけてスタッフを教育してから現場に出しているのだそう。
頼もしいではないか。
テントで過ごすキャンプは電気もないし、ロッジ滞在の快適さに比べるとどうしても劣ってしまうところは確かにある。
でもその分、サービスやホスピタリティーで何倍も満足させまっせと言うのがブッシュ・ラークのモットーだ。
環境にも動物たちにも負担最小の「サステナブルな旅」を心地良く経験させてくれる。
ダイヤモンドのおかげで経済力を持ったボツワナは、自然保護に対しても積極的に動き、1992年には野生動物保護の法律も制定した。
国立公園などの利用料は環境保護だけでなく密猟防止対策にも使用されているという。
政府はサステナブルな旅・エコツーリズムを呼びかけており、プラスティック使用を控え、ソーラーパネルを積極的に取り入れる宿泊施設も増えているそう。
「持続可能な」という意味のサステナブル。
サステナブルな旅とは、自然・文化・歴史的環境を尊重し損なわせることなく、観光による弊害を抑え、地域コミュニティにも有益であることを目指す旅のスタイルで、それが将来に渡り長く続けていくためのあり方だと考えられている。
テントで過ごすキャンプの旅は自然に優しいだけでなく、観光客が利用することで国立公園の環境保全資金や地域の利益にもつながり、サステナブルな旅の理想形の一つだと言える。
我々のキャンプ場の片隅で、ソーラーパネルや夜間にテント内で使用するソーラーランタンが並んで充電されていた。
カメラやモバイルバッテリー、携帯電話などはサファリカー稼働中に車内で充電できるので撮影に支障はない。
テントは風通しを維持しつつ虫が入らぬようファスナーで完全に閉じることができるネット付きだし、清潔なベッドにはバスタオルなども用意されている。
滞在者個別に鏡や簡易洗面台も備え付けられており、早朝でもお湯を用意してくれるのが嬉しい。
ベッドに用意されたバスタオルなんて立体スワン折ですよ、スワン!
テント一張りずつ専用のシャワーとトイレが設けられているので、夜間でもテントから出ずに使用できる。
キャンプ場にはフェンスなど無いので、夜間にテントから出て暗がりを一人でウロウロすると非常に危ないからだ。
腹を空かせた猛獣が登場するかもしれないからね。
シャワーはバケツ1杯だが、暖かいお湯でスッキリ爽やかにリフレッシュできる。
口に入る水はマウンで購入した飲料水で、それ以外に使用する水はサウスゲートの給水場から運んできたオカバンゴの地下水なのだそう。
世界遺産の水だ。
ありがたく大切に使おう。
トイレは穴を掘った地面の上に蓋付きの便座が設置されており、使用後は横に用意してあるバケツの砂をかけてネというシステム。
すばらしい心遣いだと思ったのは、砂に焚き火の灰を混ぜてくれていること。
自然に還る消臭剤だ。
洗濯までしてくれるしもう至れり尽くせり。
そして我々が去った後は、ほぼ元どおりの状態で自然に還すことができる。
テントは恒久的なロッジよりも自然環境への負担が最小限に抑えられることが何よりもすばらしい。
オカバンゴは湿地帯のため蚊やハエが多いと聞いていたが、我々が訪れた9月中旬はまだおとなしい時期らしく、蚊に悩まされて眠れないという夜はなかった。
ハエは黒い色を好むから明るい色の服の方が好ましいと勧められていたが、それも杞憂に終わった。
オカバンゴ・デルタを旅するなら、オアシスの水が豊富で動物が集まり、蚊やハエが少ない乾季である7〜9月がベストシーズンと言えるだろう。
マラリア感染のリスクも低い。
とはいえ紫外線対策にもなるので、なるべく肌を出さない服を選んだり虫除けを使うことをお勧めする。
心配ならマラリアの予防薬を処方してもらい到着前から服用しておくのも良いだろう。
ちなみに日本やオーストラリアなどを含め、黄熱病の無い国からボツワナに入国する際に義務付けられている予防接種の類は無い。(2024年1月現在)
大きく育った小さなゾウ
一息付いて、すぐにランチになった。
ベテランシェフ・ムーサのキッチンは、もちろんガスではなく焚き火仕様だ。
今日のランチは卵料理にサラダとパンが添えられていたが、このパンだって、マフィンだってケーキだってメイン料理だって何だってかんだってぜーんぶ焚き火で作っちゃう。
どれも美味しくて大満足。
私が知る中で、ムーサは世界で1番腕の良い焚き火料理人となった。
ランチ後、さっそくゲームドライブに出発した。
乾ききったマシャトゥとは景色が全く違い、久しぶりに見るしっとりした緑や水にほっとする。
水辺にいるというだけで、こんなにも安堵を覚えるとは。
木々の姿が、水面に顔を出した草の間に映って揺れている。
今が乾季ピークの砂漠だとは信じがたい風景だ。
前回この地域にPULAの恵みがあったのは半年くらい前だったというから、きっとこの水は1,000km以上離れた隣国アンゴラの高地に降った雨であろう。
地球の水の循環が織りなす景色がそこに有った。
いつかこの水も気体に姿を変え上昇し雲になり雨となって、再び地上に降りてくるのかと思うと、しみじみ感慨深い。
今日からお世話になるガイドは、オカバンゴで生まれ育ったというカテンボ (Katembo)。
ガイド歴25年のキャリアを持つ4人のお父さんだ。
Ka はツワナ語で「小さい」、Tembo はスワヒリ語で「ゾウ」という意味だそう。
カテンボは大きくて頼もしいビッグダディだけど、いつまでも「小さなゾウ」のままなのだ。
野生動物に囲まれて育っただけあって、彼の動物モノマネのリアルさには相当の磨きがかかっている。
ゾウ 、カバ、カバの喧嘩、ハイエナそしてライオンを披露してくれた。
あまりにも上手なのでカテンボが新種の生き物に見えてくる。
ま、小さなゾウではあるけどね。
シショーはカテンボの真似る動物の声の違いをメモし始めた。
「これ、ひらがなで書くと全部おんなじなんだけど。うわっはっは」
一同爆笑。
カテンボもつられて笑う。
魔法のオアシスの恩恵のないマシャトゥは、乾いた硬い大地が剥き出しだったが、オカバンゴの大地は柔らかく厚みのある草の絨毯に覆われている。
全てはPULAの恵みのなせる技だ。
食料が十分にあるという安心感があるのか、動物たちの表情が物柔らかに見えてくる。
木にへばりついているゾウがいた。
口を半開きにし、長い鼻をウーーンと伸ばして高い位置にある葉っぱをなんとか掴もうとしている姿に、こちらもつられて低い鼻をウンウンと上にむける。
頑張れ、頑張れ、よし掴んだ!
乾いた木の枝よりも緑の葉っぱの方が断然魅力的なのだろう。
ふと、水の乏しいマシャトゥの荒野で会った子ゾウたちが、硬く乾いた小枝以外の選択肢も無いままに、バリバリと一生懸命食べていた姿を思い出した。
あそこがオカバンゴのように潤っていたら、もっと生きやすかっただろうに……。
いやそうじゃないな。
これだと「隣の芝は青い」的解釈になってしまう。
現状への不満を並べても決して生きやすくはならない。
たらればの世界に捕まっていたら前に進めない。
今この瞬間の心の状態の積み重ねが、明日を作り未来を作るのだった。
生きやすくするもしないも自分次第だった。
与えられた環境や状況を受け入れ、その中で最善を求め、過去や未来にとらわれ過ぎずに、今を精一杯生きる。
動物たちが当たり前のようにやっていて、人間には難しい生き方。
あの子ゾウたちは食べるということに集中して、今をしっかり生きていたよ。
夜が生きていた
乾季のオカバンゴの夕景は、砂漠に浮かんだ水鏡のお陰でその神々しさが倍増する。
時間の流れが色彩に姿を変えて、空と水面を同じように染めながら移りゆく。
あまりにも幻想的な鏡の景色に、未知の惑星に迷い込んだ気分になってきた。
そろそろ四輪駆動の宇宙船でキャンプ場へ戻る時間だ。
+++
夜空一面に広がる星屑を仰ぎながら冷えたビールで乾杯し、焚き火料理人が作ってくれたごちそうに舌鼓を打った。
今夜の前菜は米ナスとトマトのチーズ焼き、メインはローストビーフに野菜が添えられ、そしてデザートはレモンマデイラケーキ。
贅沢なコース料理にキャンプ中だったことを忘れてしまう。
南アフリカ産赤ワインも頂いちゃおう。
食事と今日の出来事に盛り上がっていると、突然背後で動物の気配がした。カバたちが水辺へと移動しているらしい。
カテンボに「もしこの状況でライオンが出てきたらどうすればいいの?」と聞いてみた。
「いい質問だ。動物たちは利口だから無謀なことはしない。私たちが今テーブルを囲んでいるようにグループでいれば、彼らが襲ってくることはまずない。もし万が一ライオンが近寄ってきたとしても、声を上げず、走らず、ゆっくり歩いてサファリカーに乗り込めば大丈夫だ。ライオンは車と戦っても勝ち目はないと知っているからね。でも彼らにとって単独で離れている人間は狙いやすい。だから深夜に1人でテントから出てはいけないよ」
という回答だった。
単独を避け、声を上げず、走らず、ゆっくり。
しかと頭に叩き込んだ。
濃厚な1日が終わり、自分がオカバンゴの大地の一部であることを実感しながらベッドに沈んだ。
カエルの声がリンリンリンと響く鈴玉となって闇の中をころころ楽しそうに踊っている。
その音色をバックコーラスに、カバやライオンたちの低音の唸り声が響いてメインボーカルとなる。
夜が生きていた。
閉じた瞼の裏で、大きく育った小さなゾウの操縦する宇宙船で星降るオカバンゴ野外劇場の上を空中遊泳しているうちに、意識が遠のいて行った。
【第18話に続く】
<世界遺産へ Let’s オカバン Go!>
- Let’s オカバン Go!
- 忍法◯◯の術
- マーガリンのクイズ
- アフリカの南十字星
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
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