連載|旅フォトエッセイ『PULA!〜アフリカの魔法のオアシスへ〜』第14話
*珍しく寝ていないライオンやお一人様ではないヒョウに遭遇し撮影にも力が入る。そして、最後のフォト・ハイド、秘密基地からの撮影だ。結果はいかに!?
子供の頃から憧れていたアフリカへ、フォトラベラーYoriがカメラを担いでついに足を踏み入れた。
日本を代表する人気自然写真家で、2022年には世界最高峰と言われるロンドン・自然史博物館主催のコンテストで日本人初の最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた高砂淳二さんと一緒に、サファリを旅する大冒険。
南アフリカから、ボツワナの世界遺産・アフリカの魔法のオアシス・オカバンゴ デルタへ、アドレナリン分泌過剰な日々の珍道中を旅フォトエッセイにして連載しています。
未発表写真もたっぷり掲載!
【第1話はこちら】
”PULA”の奥深〜い驚きの意味は第7話でご紹介しています。
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Episode14 <ボツワナスーパードライ共和国>
寝子な王様
今日は珍しく「寝ていない」ライオンに会えた。
おとといのライオン一家の他にも遭遇したライオンたちはいたが、いずれも腹出し伸びまくり爆睡状態だった。
幸せそうでたいへんヨロしいのだが、写真を撮りたい我々にはちょっと物足りなかったため、今日のような生命維持活動実践中の姿はありがたい。
1頭の男前なライオンが捉えた獲物を食べていたのだ。
そういえば、私の住むオーストラリアのコアラも寝てばっかりだ。
彼らの睡眠時間は1日20時間と言われているので、動物園でも目を開けている姿に会えたらラッキーなのだよ。
たいていは背中を丸め「反省中です」な姿勢でユーカリの木にちょこんとくっついている。
粘り勝ちで収める事ができた、モフモフおんぶコアラお目々ぱっちりショットをご覧に入れちゃおう。
ならばライオンの睡眠時間ってどのくらいなのか気になったので調べてみた。
彼らの1日は平均すると、狩りに2〜3時間、食事に1時間、そして睡眠に20時間を費やしているという。
20時間……。
あれコアラと同じじゃないか、ライオンっ。
家族持ちのオスは狩りも子育てもしないのだから、実はもっと寝ているんじゃないのか?
いや、ちゃんと起きて一家を見守っている。
のか?
ビッグキャット・百獣の王は紛れもなく「寝子」なのであった。
今日は、そのお寝子様がお目覚めでお食事をなさっているたいへん貴重な1時間枠に遭遇できたというわけだ。
リチャードによると、獲物はエランドらしい。
ライオンは口の周りを赤く染め、愛おしそうに肉を舐めている。
隅々まで丁寧に食べる。彼らは生きるために必要な分だけの命しか捕らえない。
いずれ彼の体も土に還り、養分になり、草木を育て、それを草食動物が食べ、循環していく。
ライオンは柔らかい骨まで食べて、あとはハイエナなどに残すのだそう。
2羽のハゲワシが木の上から狙っていた。
+++
青色キャンバスに初めて白い雲が現れて、今日の空には表情がある。
日差しが和らぎ、なんとなく湿度を感じて楽になった。
3頭のキリンが敵を察知したらしくカーブを描きながら走っていった。
大きなストライドで大地を蹴る長い四肢はスローモーションのように滑らかに運ばれ、逃げる姿さえもゆったりと上品だ。
キリンの最たる敵といえばライオンだが、とするとこの近くにいるのだろうか。
サファリカーを少し進めると、葉の茂る低木が作った日陰の中にいらっしゃいました子連れのメスライオン!
キリンたちよ、安心したまえ。
彼女たちは今「寝子」だ。
しばらく観察していると、1頭の「子寝子」が活動開始。
母親の乳首にしゃぶりつき、一心不乱に吸い始めた。
乳の出が良くなるよう両手で「おっぱいもみもみ」するのはイエネコと同じだ。
お腹がいっぱいになると母に愛情たっぷりの毛づくろいをしてもらい、目を閉じうっとりと大満足のご様子。
毛づくろいのリズムに合わせてピンク色の舌が顔を出す。
「おかーさんにペロペロしてもらったら、ぼくのベロもペロってなっちゃった」
もう子寝子ちゃん、かわいすぎ。
ヒョウからのお一人様ライフ考
寝子たちに別れを告げ、おととい会ったヒョウの様子を見に行った。
獲物を捕え、それを樹上に運び上げるという大仕事を成し遂げ、満ち足りた雰囲気で休んでいたあのヒョウだ。(第10話)
こちらも今日はお目覚めで、樹上で食事の真っ最中だった。
こちらも今日はお目覚めで、樹上で食事の真っ最中。
獲物の背中から食べていくそうだが、ほとんどを食べ尽くし、わずかな残りと足だけを確認することができた。
家族と共に暮らすライオンが異例なのだが、他の多くのネコ科の動物と同様にヒョウはテリトリーを持ち、何のしがらみも支配も無くお一人様で自由に生きている。
だから全てを自力でこなす。
狩りも身を守ることも全てだ。
繁殖期の時ですらオスとメスが一緒に行動するのは、メスの発情期間である約3日〜1週間に限られるという。
ペアになっている間だけ、毎日15分から30分おきに交尾をするのだそう。
前日だったが、その貴重なタイミングのカップルに遭遇することができた。
確かに我々が観察している間だけでも2度の交尾を行っていた。
ネコ科のオスの生殖器には無数の逆さトゲがある。
メスは激痛を感じるが、その痛みが排卵を促すため受精の成功率が高くなる。
激痛後メスがオスにパンチをお見舞いし交尾終了、15分後再開、またパンチ、という流れを繰り返す。
群れていない種のため、期間限定の交尾チャンスを確実に受精へと導きたいのだ。
子孫を残すという本能による使命達成のために、メスはオスに対して「わたし、ハツジョウチュウで〜す♡」と甘い声やフェロモン拡散あおむけ悩殺ポーズでアピールし、尻尾をからめちゃったりしてオスを挑発し惑わす。
いや、惑わしてはいないだろうけど、そう書いてみたかったのよ。
互いに気に入れば何回も何回も何回も交尾をし、発情期が終わればキッパリ別れ、それぞれお一人様ライフに戻る。
ホットなのかクールなのかわからなくなってくるが、潔いほどに未練気なくてカッコいい。
メスは自力で出産・子育てをこなし、お一人様で頑張る。
オスが手伝うことはない。
ゆえに、長期間お腹が大きいと狩りに影響が出てしまうので、妊娠期間はとても短く100日前後。
ちなみにゾウの赤ちゃんはお腹の中に22ヶ月間、キリンは15ヶ月間もいるそうだ。
草食動物の赤ちゃんは肉食動物に狙われないよう、生まれてからすぐに歩ける必要があるため十分に成長してから生まれてくる。
ゾウはなんと生後1時間ほどで歩き出すという。
最近、ニンゲン社会でも単独行動を楽しむ人が増えているようで、ソロ活、ソロ旅、ソロキャンなんていう言葉も定着してきた。
単独行動と言っても「ぼっち」とはその真意が真逆だ。
ぼっちは、本当は誰かと過ごしたいのに不本意にも独りぼっちになってしまっている寂しい状況だけど、ソロは違う。
自分で自分を独占して大いに自由を楽しむことだ。
以前はお一人様は「寂しそう」と表現されがちだったが、最近は「自分を持っていてカッコいい」的な温度に変わってきたことは、良きこと、良きこと。
20代半ばから、私は地球が見せるさまざまな表情をどんどん追いかけたくてバックパッカーになり、一人旅の醍醐味を覚えた。
もちろん不安もあるし、失敗もある。
身を守ることを含め、全て自分で責任を持って行動しなくてはいけない。
過信は絶対禁物。
それでも一人旅に惹かれていったのは、「自分の知らなかった本来の自分」に気付けると知ったからだった。
一つ知るごとに心が解放されていく感覚は心地良かったし、意外な発見もあり飽きることはなかった。
友達との旅は感動も共有できるし最高に楽しい。
でもそれは、いつもの自分のまま場所を変えただけに過ぎない。
一人で旅をしていると、自分と対話する時間が増え正面から向き合うことになる。
さまざまな体験、異国の文化、はたまた予期せぬトラブルなどを通して、己の思考と問答する。
すると自分の価値観が見えてくる。
見えていなかったものが見えてくる。
旅を無事に終え自宅に戻ってくると、その達成感からか以前よりも少し自分自身を信頼できていることに気付いた。
判断力・適応力は鍛えられたし、直感力にも磨きがかかった。
失敗もいろいろあったが、一人旅で得たものは計り知れない。
でもちょっとタクマシクなり過ぎて、可愛げがなくなっちゃったのは誤算かな。
もちろん国内だって日帰りだっていい。
ソロ旅は寂しいどころか思わぬ収穫があって楽しいですぞ。
ニンゲンは樹上のヒョウとは違うので、コミュニケーションのある日常の生活・活動があってこそ。
オンとオフを上手に使い分けて、良質な人生を作っていきたいものだ。
各1。終了。
さあ、午後は3回目のフォト・ハイド、最後のチャンスだ。
我々は秘密基地に潜入し、カメラをセットし、動物たちが来るのをじっと待った。
遠くで喧嘩をするバブーンの声。飛び去る鳥たちの羽ばたきと風のサーッと流れる音。
…………誰も登場しない。
雲が増え日差しが隠れ、水面は空のどんより色を映し始めた。
今日は気温があまり上がらなかったせいか、動物たちの喉の乾きも穏やかだったのだろう。
すると、ホロホロ鳥軍団が安定のわちゃわちゃ状態で走ってきた。
「いいぞいいぞ、この調子でみんな集まって来ないかな」という期待も虚しく、ソロ活的インパラとヌー、各1。終了。泣。
こんな日もあるのね。
昨日(13話)の鏡面世界の水辺の賑わいは奇跡的に素晴らしいものだったのだと、改めて感激した。
風が強くなり、巻き上がる土煙で景色がかすみ、そして誰もいなくなった。
明日は少し気温が下がって過ごしやすくなるらしい。
そしていよいよ2か所目の目的地「世界遺産オカバンゴ・デルタ」観光の拠点となっている町「マウン」を目指す。
1000km、12時間のドライブだ!
【第15話に続く】
<ボツワナスーパードライ共和国>
- PULAの気配
- 自然を守る??
- さらばマシャトゥ
ワクワクの旅フォトエッセイ、次回もお楽しみに!
Source: Mashatu Game Reserve, WWF-UK, African wildlife report, National geographic kids, South Africa online
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